息子が1歳8か月の時に発覚。発達障害親子の“生きづらさ”を丁寧に描くコミックエッセイが大反響

コミックエッセイ

更新日:2016/7/15


『生きづらいと思ったら親子で発達障害でした』(モンズースー/KADOKAWA)

 先天的に脳機能に障害があり、乳幼児期に生じる発達の遅れを指す「発達障害」。近年では、幼い頃の発達障害に気がつかないまま成長し、空気が読めない、気が散りやすく集中できない、などの特徴が顕著に現れる「大人の発達障害」にも注目が集まっている。

 先日発売された『生きづらいと思ったら親子で発達障害でした』(モンズースー)は、大人の発達障害当事者の著者・モンズーさんと、発達障害グレーゾーンの2人の息子たちとの日常を綴ったコミックエッセイ。

 乳幼児期から気になることが多くあったと語る著者の息子・そうすけくんは、寝返りや首が座るまでに長い期間を要し、ひどい癇癪持ち。1歳4か月になって喋れる言葉は「わんわ(犬)」のみだった。しかし、そうすけくんを入園させた保育園でお母さんと手をつないでもう一方の手で「バイバイ」と手を振る同じ月年齢の子を目撃し、息子との“違い”をより強く感じるようになったという。

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 同書には、著者がそうすけくんとの生活のなかで感じた違和感や不安が、とても丁寧に描かれている。彼女の悩みとは裏腹に、職場の人に保育園に慣れない息子のことや、癇癪について相談しても「うちの子も昔よく泣いてたよ」などの答えが返ってくるばかり。母子手帳と一緒にもらった相談施設の一覧を見ても、DVや虐待の相談所など、どこも“ここじゃない感”が強く、明確な答えが出ないまま、親子で受けた1歳半健診で決定的な出来事が起きる。

 その日、身体測定もままならないほど暴れるそうすけくんをスタッフ3人がかりで計測。医師の診断時には息子が夜寝ないときの対処法として「何をしても泣きやまないときお互いイライラするので少し放おっておいたりしてい」ることを告げると「放っておく? それじゃ虐待だよ」と、一蹴されてしまう。

 虐待という言葉が胸に突き刺さり、呆然とするモンズーさんの横で、そうすけくんは「知らない場所で人ごみの中 待たされ続けたイライラがついに 爆発」してしまう。息子の凄まじい泣きっぷりと、周囲からの視線にいたたまれない気持ちになった彼女だったが、「こんなに泣いてたら今まで大変だったでしょ 頑張ったね 良かったら話聞かせて」と笑いかけてくれた保健師を前に、ついに泣き出してしまう。一人で抱えていた不安と、直前で医師にいわれた「虐待」という言葉、癇癪を起こしてしまった息子……当時、彼女が置かれた状況を考えただけでも胸が痛む。

 それから一カ月後に実現した心理士との面談を経て、1歳8か月のそうすけくんに告げられたのは、発達が遅く「全体的に1歳くらい」という診断だった。さらに追い打ちをかけるように、モンズーさん自身も発達障害(ADHD)という診断が下されたのだ。怒涛のごとく押し寄せる現実に、押しつぶされそうになりながらも、子供たちを愛する母の愛があたたかくも切ない……。

 同書を読んでいると、彼女が感じていた我が子とほかの子との違いに「発達の遅れ」という、ひとつの答えにたどり着くまでの道のりが非常に長く険しい印象を受ける。それは、自治体のサポート不足や専門病院が少ない実情など、さまざまな問題が複雑に絡み合っていることを表している。この『生きづらいと思ったら親子で発達障害でした』という一冊が、彼女のように漠然とした不安を抱える、多くの母親たちの道標になることを切に願う。

文=谷口京子(清談社)