もし猫好きな漫画家が「猫島」へ移住したら? 数々の苦難を乗り越えて猫と一緒の生活を満喫できるか!?

マンガ

公開日:2016/6/21


『猫島に移住しました。』(木月けいこ/ふゅーじょんぷろだくと)

 今さらではあるが、とにかく巷では「猫」がアツい。『迷い猫と先生』『猫なんかよんでもこない。』『世界から猫が消えたなら』など猫をテーマにした映画が数多く製作され、猫関連書籍も大人気。「猫カフェ」も連日大盛況で、猫がたくさん生息する「猫島」には観光客が殺到しているとか。まあ私も東京へ来る前、地元で20年近く猫と暮らしていたからその魅力はよく分かる。しかし、である。さすがに猫可愛さに、離島の猫島へ移住しようとまでは普通、思わないだろう。

 ところが、それを実行してしまったツワモノがいる。『猫島に移住しました。』(ふゅーじょんぷろだくと)の作者・木月けいこ氏だ。「崖っぷち漫画家モドキ」(本人談)である氏は、エッセイコミックの依頼を受けてさまざまな企画を検討。猫島への移住に心が固まると、さっそく移住先の選定へ。結果、香川県の男木島と宮城県の田代島の2箇所に絞られた。田代島のワイルドな猫たちに比べ、男木島の猫は穏やか。居住環境も男木島のほうが住みやすそうだったが、作者はワイルド成分を求めて田代島へ移住を決定する。まあ確かに、何かと波乱があったほうがネタにはしやすい気がするので、エッセイコミックの面からすればこの選択は正解かもしれない。

 目論見どおりかトラブルは頻発するが、いずれも猫とは無関係の案件だった。例えば離島への引っ越しなので、対応する引っ越し業者がなかなか見つからない。ようやく引っ越せたかと思えば、家にやたらと虫が発生して対応に追われる、などである。それでも移住の先輩である「Oさん」と「Mさん」の夫婦と出会えたことは、作者にとって幸いだった。彼らのさまざまなアドバイスは大いに木月氏を助け、また心の支えにもなったことだろう。やはり大切なのは「人の縁」であり、それはどこにいても同じだということだ。

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 ところで、肝心の「猫との生活」はどうなっているのか。実際、島には多くの猫が生息しており、作者も見かけるたびにマタタビやおやつを貢ぐような生活。田代島は猫を大切にする島で、猫の天敵(犬など)は飼えない「猫天国」な場所なのだ。保健所に連れて行かれることもないため増え放題かと思えば、意外とそんなこともないという。冬場などは寒さのほかに「猫団子」─寒さをしのぐために猫たちが団子状に重なること─で圧死する猫もいるのだとか。島民も自分が飼っている猫以外には割とドライで、いなくなった猫にいつまでも構ってはいない。作者曰く「島の営みの一部と捉えて割り切っている」ようで、それこそが観光客とは違う地元民のスタンスなのだ。

 では作者の猫との向き合いかたはどうかというと、案外と情にもろかった。バイト先のキャンプ場で見かけた、痩せ衰えた2匹の子猫があまりに不憫で引き取ってしまったのだ。「わたあめ」「ムーチン」と名づけられたその猫たちは元気に成長するも、あるときノラ猫の襲撃を受ける。そのノラは木月氏が餌をあげていた猫だったのだが、恩をアダで返された形だ。それで餌やりをやめるかと思いきや、情に流され餌をやり続けているという。それが甘いかどうかは別として、飼い主としては外猫との関係は頭の痛いところ。そういえば私が猫を飼っていたときも、ウチの猫が下駄箱の上で、よその猫が自分の餌を食べているのをじっと眺めていたことがあった。その状況を見て「力関係ができているんだなあ」と、やるせない気分になったものである。

 こうしてエッセイを見てみると、当然ながらよい面もあれば悪い面もある。家賃が1万円と安かったり猫も自由に飼えたりする一方、島には店舗がほとんどなくネット通販頼みだったり、さまざまな害虫との闘いがあったりなどなど。それでも日々を楽しく感じられるなら、その選択も間違いではないと思わせてくれる。あとは作者が、このエッセイ発売後でも島に住み続けられるかが気になるところ。仕事終了と同時に都会復帰などといわず、今後も現地から情報発信を続けてもらいたいものである。

文=木谷誠