救いも明るい未来も描かない作家、深町秋生の話題の警察小説とは?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/28

 作家・深町秋生のデビュー作で第3回 『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した『果てしなき乾き』(宝島社)は、賛否両論が噴出する大きな話題作となった。というのも、彼が執拗に描く残酷な世界には救いや明るい未来は簡単には訪れないからだ。 ヒーローであるはずの元刑事の主人公は、クスリに手を出し、レイプにも及ぶ。守られる存在であるはずの娘も、自らすすんで暗い世界に身を投じている。
  
 「今、あの小説を書けと言われても書けないと思う。当時は本当に、ピュアな自分の破壊衝動だけで書いていて、読者を喜ばせようという意識はなかったですよね。今は前よりも、プロ作家としての自覚が出てきたと思う。読者が喜んでくれる、エンターテインメントを書こうという気持ちがあります」
  
 デビューから6年、5作目となる小説『アウトバーン』(幻冬舎)は初のシリーズもの。タフで冷酷な美人刑事が主人公の警察小説だ。
  
「今まではとは作り方が全然違いますね。“シリーズ1巻にして主人公死す!”というわけにもいかないですし。今までは緊張感を保つために、愛着のあるキャラクターでも、どんどん殺してましたからね。でもこの小説でも、主人公だってどうなるかわからないぞ、という緊張感は持たせるつもりです」(深町さん)
  
 その言葉通り、読者に緊張を強いる不穏なムードは失われていない。たとえば、大量の水を口からホースで送り続ける拷問、「水責め」のシーンは、嫌になるくらい、魅惑的だ。悪党たちの腹が「フォアグラ用のガチョウみたい」に膨らみ、噴水のように水を吐き出す―――。淡々と、けれど延々と、こんな描写が続くことも。
  
 「自分では、そんなに気持ち悪いと思って書いてないんですけどね。残酷な描写はむしろすいすい書けてしまう。ちょっと病的なところが僕の根っこにあるんですかねえ。エンタメに、危険なものをどう“調合”していくかだと思います」(深町さん)
  
 エンタメ化することで破壊衝動を薄めるのではなく、濃いまま、正確な量を投入する。キャリアを重ねた深町さんがたどり着いたやり方だ。
  
(ダ・ヴィンチ9月号 今月のブックマークより)