道を極めれば男も母乳が出る!? サンキュータツオ、春日太一が語る『俺たちのBL論』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/15


『俺たちのBL論』(河出書房新社)

コミケが超巨大イベントとなり、腐女子という言葉が一般化した今でも、「男がBLを楽しむ」という行為はハードルが高いものと思われているだろう。そんな中で、男が自らBLの誤解を解き、BLを読み、BLに欲情する段階にまで到達してしまう一冊が『俺たちのBL論』(河出書房新社)。著者は、芸人のサンキュータツオと、映画史・時代劇研究家の春日太一だ。

本書は、すでにBLの面白さにどっぷり浸かっているサンキュータツオが、BLを知らない読者代表の春日に、その魅力をレクチャーしながら進んでいく。面白いのは、BLを楽しむという行為が、男性が普段している行為とそう遠くない場所にある……ということが明らかになっていく点だ。

例えば春日の「『やおい』という活動は限りなく映画評論と似ている」という指摘。

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この指摘は、サンキューが『ドラゴンボール』を例に、

・久々に登場したピッコロが穏やかな性格になっていたことについて、「恋愛をして幸せになったのでは?」「孤独になったことで、自分を成長させた悟空という存在を意識したからでは?」と妄想するのが余白の愉しみ

・「腐」とは“余白と補完”の知的遊戯

と説明したことを受けて発言されたもの。

そして春日は、やおいと映画評論には、対象への解釈を「評論」という理性的な行為に持っていくか、「やおい」的な創作という感性的行為に持っていくかの違いしかなく、途中の掘り下げ方は同じなんじゃないか……と述べている。言われてみると「確かに!」という話だ。

また、時代劇や任侠映画は男性ファンが多いジャンルだが、本書ではその愉しみ方も、やおいの世界の説明に用いられている。

例えば「三船敏郎いいわー」という感情は“キャラ萌え”であり、「仲代達矢と戦っているときの三船敏郎っていいわー」という感情は“関係性萌え”。そして「三船と仲代はデキてる」と妄想を既成事実化して楽しむようになれば「腐」の有段者……と説明されている。

有段者の段階まで達している男性は少ないだろうが、サンキューの「時代劇や任侠映画を見る男は、男同士の絆に燃えているだけではなく、実は萌えてもいる」という言葉には、「うーん、そういう部分もあるかも……」と思い当たるフシがある人も多いのではないだろうか。

なおサンキューは「萌えを突き詰めることでBLに至ったタイプ」と自身について説明。アニメ『おおきく振りかぶって』では、応援したい男の子たちを見つけて「女」になり、アニメ『Free!』では「うちの子の幸せを願う母親」の心境を持つに至り、“母乳が出た”そうだ(もちろん比喩)。

そして“おじさんカワイイ”みたいな感情まで芽生え始めたら、BLのオアシスまではあと一歩だという。ちなみに春日は「ジャック・ニコルソンがたまに上目遣いで狂ったような顔をするとき、すごくかわいい」とも述べている。言われてみると近年は、「『ダークナイト』のジョーカーかわいい」「『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のリクタスかわいい!」などなど、男が男を「かわいい」と褒め称えることも増えている印象。男たちのBLへの心の障壁は小さくなっているのかもしれない。

なお本書には、「二次元において性は属性でしかない」「萌え=エロではない」といったBLへの誤解を解く解説も多く、終盤の議論は想像を超える深みに達していくので、その内容はぜひ本書を手にとって確認してほしい。

文=古澤誠一郎