コンピュータゲームが、スポーツと呼ばれるまで――逆風の時代、ゲームに青春を捧げてきた少年たちを描く『ウメハラ FIGHTING GAMERS!』がアツい!

マンガ

公開日:2016/6/28


『ウメハラ FIGHTING GAMERS!』(梅原大吾 監修、西出ケンゴロー 作画、友井マキ 原作/KADOKAWA)

「eスポーツ」と呼ばれる競技を知っているだろうか? これは、コンピュータゲームによって行われる対戦をスポーツと捉えたもの。ここ最近、日本での知名度も高まってきていて、いまや全世界の競技人口は5500万人にものぼるという。そして、なかには賞金総額6億円の大会も存在し、トッププレイヤーともなると年収は1億円を超えるとか……!

 しかし、いまだにゲームに対する評価は高くないのも事実。「子どもにはゲームをやらせたくない」「ゲームなんて大人になったら卒業するもの」といった声もよく耳にする。ゲームプレイヤーが職業として成立し、ゲームでお金を稼ぐことが可能になった時代にも関わらず、だ。となれば、ゲームが普及し始めた80~90年代においては、なおさらその風当たりが強かったことが伺える。

 そんな時代に生まれ、逆風のなかでもゲームに没頭する少年たちの執念を描いた作品がある。『ウメハラ FIGHTING GAMERS!』(梅原大吾 監修、西出ケンゴロー 作画、友井マキ 原作/KADOKAWA)。本作は、日本人で初めてプロのゲームプレイヤーと認定された梅原大吾氏をはじめとする、ゲームに青春を捧げてきた実在の少年たちが主人公だ。

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 舞台となるのは、「対戦格闘ゲーム」が日本全国でブームを巻き起こした90年代のゲームセンター。そこに集まるのは、「勉強に専念して、進学・就職する」という一般的なルートからはみ出してしまったような少年たちばかり。とはいえ、彼らはみな無目的というわけではない。梅原氏はもちろん、そのライバルである大貫晋也氏や友人たちは、一様にゲームというものに胸を熱くさせているのだ。対戦で勝利すれば誇らしい全能感を覚え、負けてしまえばこれでもかというくらいに悔しがる。特に大貫氏は自身も「たかがゲーム」と思っていたのにも関わらず、梅原氏に敗北したことを機に、「(負けたことで)人に軽く見られるのが怖い。勝てないのは不安だ」と追い込まれていく。彼らにとってゲームとは、もはやアイデンティティとなっていたのではないか。読み進めていくと、その異様な執念に圧倒されてしまう。

 本作では、当時ゲームを否定していた人たちの姿も描かれている。周囲の大人たちや、時には同級生までもが「ゲームなんて意味がない」「くだらない」「人生の敗者」と口にするのだ。しかし、作中ではゲームが必要以上に美化されることなく、これらの言葉も覆されない。むしろ前述の通り、大貫氏や梅原氏ですら、「ゲームには意味がないのかもしれない」と感じている。そして、それと同時に、「だけど、うまく言葉にできない魅力がある」とも。これこそが、ゲームの魅力なのではないだろうか。無理に意味付けなんてせず、好きなことに熱中してなにが悪い。筐体に座る彼らの後ろ姿からは、そんな熱い想いが伝わってくる。

 そうそう、奇しくもこの7月には、本作と同様にゲームをテーマとした『ハイスコア・ガール』(押切蓮介/スクウェア・エニックス)の復刊・連載再開が決定した。押切氏も本作第2巻の帯に「自分がやりたかった事が見事に表現されており、羨ましくて悔しいです。でもそれらを通り越して魂に響き、感動しました!」とコメントを寄せているように、両作品には通ずる部分が多々ある。ゲームを通して衝突し、仲を深めていく。そういった姿を丁寧に描くことで、あらためてゲームの良さを浮き彫りにしているのだ。

 また本作には、『ストⅡ』『ヴァンパイアセイヴァー』といった実在のゲームも登場する。リュウや春麗、レイレイ、ビシャモンらが闘う様子を見ていると、いつしか少年時代へと引き戻されている自分に気づくかもしれない。ぜひ、彼らとともに90年代のゲームシーンを追体験していてはいかがだろうか?

文=五十嵐 大