「嘘が吐けない」異世界で天才詐欺師が騙しのテクを伝授!

マンガ

公開日:2016/6/30


『異世界詐欺師のなんちゃって経営術』(宮地拓海/KADOKAWA)

 屈折した主人公(クズともいう)が登場する作品の面白さというのは、「おれたちにできない事を平然とやってのけるッ」主人公の生き様そのものだ。常識を突き破った言動は、時にすがすがしさや大きな笑いを提供してくれる。だから、どうせクズなら欲望に忠実であればあるほど、変態であればあるほどいい。『異世界詐欺師のなんちゃって経営術』(宮地拓海/KADOKAWA)で主人公を務めるのは、そんな最高に最低な男だ。

 本書は、小説投稿サイト「小説家になろう」および「カクヨム」の人気連載を書籍化した“異世界経営コメディ”。「異世界転生×屈折した主人公」といえば、同じく「なろう小説」発で2016年にTVアニメ化もされた『この素晴らしい世界に祝福を!』や『Re:ゼロから始める異世界生活』が話題だが、本書の面白いところは主人公ヤシロが詐欺師だということ。ただ屈折しているだけではない、リアルなアウトローなのだ。

 日本にその名を轟かせてきた詐欺師ヤシロが、16歳の姿となって転生したのは「嘘を吐けば、カエルにされる」という異世界だった。嘘八百を並べて生きてきたヤシロにとっては地獄のような世界だが、実はこの世界も騙し騙されの世界だということに気付いていく。

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 宿無し文無しのヤシロが住み込みで働くことになった食堂「陽だまり亭」の店主ジネットは、まさに騙される側の代表格。善意が服を着て巨乳を揺らしながら歩いているようなお人好しといっていい。ヤシロが放った「パイオツ、カイデー!」の意味を「笑顔が素敵」と説明されれば、真に受けて自分のパイオツ(笑顔)はどうかと聞いてくるような無垢な女の子だ。基本的に無防備だから、ヤシロもやりたい放題。下着の拝借など、ジネットが恥ずかしがるようなことも平気でやってのけてしまう。

 しかもヤシロのクズっぷりは、ジネットの親友エステラにも向けられる。エステラを男性だと勘違いしていたヤシロは、女性だとわかるやいなや今度は貧乳いじりを繰り返す。そこへ本来温厚なエステラが苛立ち交じりに言い返すという構図は、まるで“貧乳漫才”。心地良いテンポ感で、活き活きとバカバカしい会話が紡がれていく(褒め言葉)。ちなみに散々貧乳を罵倒したくせに、貧乳に触れただけで簡単に手の平を返すところもさすがヤシロさんとしかいいようがない。

 あれよあれよという間にヒロインたちを手玉に取っていくヤシロだが、ヒロインたちを手玉に取るのはヤシロだけではない。お人好しすぎるジネットはこの世界の詐欺師のいいカモになっており、「陽だまり亭」は火の車だった。ヤシロはそんな詐欺師たちをカモにして、ジネットのために「陽だまり亭」を立て直そうとする。ヤシロがすごいのは、「パイオツ、カイデー」という嘘をついたところで、この世界には“ルール外”があることに気付いたことだ。カエルになるのは“嘘だと証明された”時だけであり、「嘘でなければ何を言ってもいい」という抜け穴がある。ヤシロの針を通すような詐欺トークも一見の価値ありだ。

 なお、電子特別短編にはジネットとエステラをそれぞれ取り上げた短編が収録されているので、作者のおっぱいLOVEをもっと堪能したいという方には電子版がオススメだ。

文=岩倉大輔