この発想はなかった!! 勇者と魔王が無人島に流されて、一時休戦!?

マンガ

公開日:2016/7/5

 ドラマや小説、ゲームなどで、因縁のライバルといえば、「勇者」と「魔王」だ。いわば「マリオ」と「クッパ」に代表される善と悪の関係は、長年愛されている物語の主線といえる。

 しかし、その結末は大体決まっている。勇者が悪の魔王を倒し、世界が平和になる。そうではない物語は、なくはないが、まだまだ少ないのではないか。

 そんな中、「その発想はなかった!」と唸らせてくれる少女コミックが単行本化した。

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勇者と我輩の無人島漂流記』(野崎アユ/白泉社)は、斬新過ぎる勇者と魔王の物語だ。

 勇者キールと大魔王ヴェイトは決戦の最中、崖から落ちて海の中へ。無人島漂着してしまい、「生き抜くために、一時休戦して協力し合おう!」と未だかつてない「協定」を結ぶ。

 さらに、『美女と野獣』の「野獣」に容姿が似ている魔王は、水をかぶると女の子になってしまう。この設定も、少女漫画ならではの発想ではないだろうか。

 「悪の大魔王」として育ったヴェイトだが、女の子になると、その不遜なしゃべり方や、勇者にからかわれてムキになる姿などが、とても愛らしい。また、ヴェイトがどうして「魔王」になったのか、その事実が明かされた時、勇者はもちろん、読者も、今までの悪事を許したくなってしまう。結局悪いのは人間じゃないか。かわいそうで、いじらしい魔王……! ネタバレになってしまうので、あまり書けないが、魔王にこれほど感情移入ができるのも、本作の面白いところだ。

 勇者のキールは、「魔王を倒すことに執着している」おかん系クール男子。物語の序盤は人間臭さがなく、あまり魅力を感じなかったキールだが(というか、魔王の方が可愛いくて……)、回を重ねるごとに好きになっていった。

 突如、無人島に現れた自分の師匠であるロブがヴェイトに近づくのが気に入らず、ヤキモチを妬いて、最後まで「魔王」に執着する必死さに、キールの一途な人間らしさが感じられた。

 少女マンガなのに、勇者と魔王しか出てこないの? どうやって恋愛を絡めるの? と不安に思いながら読んだが、しっかりと恋愛モノになっていたし、決して相容れない関係の勇者と魔王だからこそ、惹かれていながらもお互い素直になれず、『ロミオとジュリエット』のような葛藤も入っていて、ギャグのはずなのに切なくなる展開もあった。

「大魔王(あなた)と戦って良いのは、古今東西勇者(ぼく)だけだ」というセリフは、この2人の間でしか交わされない、最高の愛の言葉だろう。

 勇者と魔王という関係に、無人島をかけ算して生まれた本作。こんなおもしろい設定を、恋愛ストーリーにしてこの世に生み出してくれた作者に、感謝したい気持ちになる。面白かったので、ぜひ多くの人に読んでもらいたい!

文=雨野裾