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周囲に壁を作り、孤立する難聴の少年を救ったのは――。実写化が決定した感動のBL作品『ひだまりが聴こえる』


『ひだまりが聴こえる』(文乃ゆき/プランタン出版)

『どうしても触れたくない』『宇田川町で待っててよ。』など、ここ最近、相次いでいるBL作品の実写化。そんな中、またひとつ実写化が決まり、話題を集めている作品がある。それが『ひだまりが聴こえる』(文乃ゆき/プランタン出版)だ。

 本作の主人公となるのは、底抜けに明るい大学生・太一と、自ら壁を作り、周囲とうまく馴染めない航平。一見、正反対なふたりが徐々に距離を縮め、友情ではなく愛情で結ばれていくさまが丁寧な筆致で描かれている。

 本作を語るうえでどうしても外せないのが、航平が抱えているコンプレックスについて。それは、彼が難聴である、ということだ。元々健聴者として生まれた彼は、中学生の頃に高熱を出し、それを機に突発性難聴に。突然訪れる静寂の毎日。それまでは普通に聴こえていた音が聴こえなくなってしまう恐怖。そしてなにより彼を苦しめたのは、周囲の心ない声。「かわいそうに」「めんどくせーなー」「声が鼻声みたいでヘン」「その耳につけてるの、イヤホン?」。そういった“雑音”が、彼を孤独にしていったのだ。

 ところが、ある時目の前に現れた、自分と普通に接してくれる人間。それが太一だった。ひょんなことから、お弁当とノートテイク(難聴者の代わりに講義内容をノートにまとめる役割)を交換条件に交流が始まった彼らは、すれ違いながらもお互いを少しずつ理解していくことになる――。

 しかし、そこで航平を襲うのが、“聴力低下”という現実。最終的にはなにも聴こえなくなってしまうのかという不安に対し、医師は「それはわからない」としか答えてくれない。このままでは、太一の声も聴こえなくなってしまうかもしれない。そうして、なかば自暴自棄になってしまった航平は、太一に「ノートテイクは他の人に頼む。今まで無理させてごめん」とメールを送ってしまう……。

 本作は、航平と太一の目線が交互に入れ替わり展開していく。それにより、ふたりのすれ違いが浮き彫りになっていくのだ。たとえば、太一が何気なく「別にもういいよ」と会話を中断させるシーン。さほど重要な会話ではなかったからこそ、太一は切り上げただけなのだが、航平からすると「何度も聞き返す自分が面倒なのでは」という不安につながってしまうのだ。聴こえる人間と、聴こえない人間。そこに生じてしまう壁は、やはり乗り越えられないのか。いや、決してそんなことはない。それは、物語終盤で太一が叫んだ以下のセリフに集約されているだろう。

大体お前は自分のこと何も言わなすぎなんだよ! 頼むからもう一人で我慢なんかすんなよ。相手にちゃんと伝えろよ。最初から諦めたりするなよ…!

 確かに、航平が孤立するきっかけとなったのは、周囲の心ない声だった。けれど、航平自身も、自分を理解してもらおうとする努力が足りなかったのは事実。それに気づかされた彼は、太一に謝罪し、前を向いて歩いていくことを決意する。そしてラストは、航平が太一への思いを告白し、やさしいキスをするシーンで締めくくられる。

 本作には、過激なイチャイチャシーンは存在しない。作者が描きたかったのは、そこに至る前の過程、ふたりが心を通わせるまでの些細なエピソードなのだろう。それ故に、男性が読んでもグッとくるものがある。果たして、本作が実写化された時どういう仕上がりになるのか、今から楽しみで仕方ない。ちなみに、5月に発売された続編『ひだまりが聴こえる ―幸福論―』(文乃ゆき/プランタン出版)では、ふたりのその後が描かれている。多少進展はしているものの、こちらもイチャイチャ描写は少なめなので、気になった男性はぜひ! 2作続けて、号泣必至の名作である。

文=五十嵐 大



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