新交通システム、ローカル鉄道…写真とともに楽しむ東日本の鉄道の旅

暮らし

公開日:2016/7/12


『にっぽん縦断民鉄駅物語(東日本編)』(櫻井寛/交通新聞社)

 小生は鉄道で旅行する際、その地方の鉄道車両が気になるが、車窓に流れる景色も大好きである。特に名古屋から伊勢へと向かう「近鉄」が幼い頃よりのお気に入り。近鉄名古屋駅から住宅地を抜け、木曽川の鉄橋を渡ると旅の始まりを実感。途中ですれ違うJRの車両にも興奮したものだ。そのせいか、今でも鉄道で川を渡ると、当時をアレコレ思い出してしまう。

にっぽん縦断民鉄駅物語(東日本編)』(櫻井寛/交通新聞社)では、このような地方の鉄道が広く紹介されている。本書はフォトジャーナリストである櫻井寛氏が全国のJRを除く私鉄、第3セクター、交通局各民鉄1社線につき1駅を途中下車して取材・撮影した『日本経済新聞』夕刊の連載コラムをまとめたものだ。

 だが、望郷の念は地方だけのものではない。首都圏に住む人にとっては、やはりそこが地元なのだ。とりわけ小生はモノレールと、フジテレビや国際展示場の前を走る「ゆりかもめ」などのいわゆる新交通システムに注目している。新交通システムとは一般的な鉄道とは異なる方式の交通機関を総称し、その中でも特に先の「ゆりかもめ」や神戸の「ポートライナー」に代表される、専用高架を自動運転する交通機関を指すことが多い。主に大都市圏を走っており、本書を読めば首都圏にはそれらが5路線ずつ計10路線も集中していることに気づかされる。どれも田園地帯を走るローカル線とは一味違う車窓を楽しめるため愛好者も多い。

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 モノレールの代表格なら、やはり羽田空港へと向かう「東京モノレール」だろう。2014年には開業50周年を迎えたモノレール界の老舗である。そこから見える景色も格別で、まるで空中散歩だ。著者の櫻井氏は「ちょっと怖いほどの高さだが、新幹線を真上から見下ろす気分は格別だ」と語る。

 その近くを走る「ゆりかもめ」もまた実に眺めが良い。ある年、小生が冬場の晴れた日に乗ったときのレインボーブリッジを渡る車窓から眺めた海と富士山の美しさはずっと心に残っている。都内から見える富士山ではトップクラスの美しさだ。

 他にも著者は「多摩モノレール」で地元の子供たちに交じり運転席後部へと陣取って前面展望に興奮し、「千葉都市モノレール」は高架からぶら下がる形の懸垂式であるため「まさに飛んでいるかの様に感じ、少し足が震えた」と語る。また同じ懸垂式の「湘南モノレール」なら、モノレールには珍しいトンネルも味わえるのだ。

 こういった交通機関は遊園地のアトラクション感覚で楽しめるうえ、実利面でも地上を走る鉄道より建設コストが低く抑えられるなどのメリットも。例えば都内足立区を走る新交通システム「日暮里・舎人ライナー」は交通渋滞解消を目的として元々は地下鉄として計画されたのだが、コストを抑えるため、既存の幹線道路上に橋脚を立て、新交通システムとして完成したものだ。

 話題が都市型路線に集中してしまったが、本書にはローカル鉄道も数多く掲載されている。櫻井氏は幼い頃の思い出から、特に蒸気機関車とディーゼルカーがお気に入りという。現在でも北海道・東北をはじめ、東京近郊でも「真岡鉄道」「関東鉄道」「小湊鉄道」「いすみ鉄道」といったローカル線でディーゼルカーは活躍中。特に千葉の「小湊鉄道」で活躍する「キハ200形」ディーゼルカーは、クリームとオレンジのツートンカラーという懐かしいデザインで今も走っているのだ。本書に掲載されたカラー写真を是非とも見てほしい。一番のお勧め写真でもある。

 日本の発展を支えつつ人々の生活に根差してきた鉄道だけに、そこにロマンを感じる「鉄道ファン」も多い。「車両好き」の小生あたりは車両形式などにこだわってしまうが、本書はもっと気軽にのんびりと、駅や列車から眺める光景を楽しんでいる。鉄道知識はひとまず横に置き、まずは身近な駅から列車に乗ってぶらりと出かけてみようか。ゆっくりとした気持ちで車窓を眺めれば、通勤通学時の景色とは違って見えてくるはずだ。

文=犬山しんのすけ