セックスでイニシアチブを握らなければ市民権剥奪!? 日本と古代ローマに共通する文化は男性同性愛!? 「結婚と性行為の歴史」

恋愛・結婚

公開日:2016/7/14


『今だからこそ知りたい結婚と性行為の歴史』(鳥山仁/三和出版)

 世界26ヶ国において性行為の年間の回数を調査したデータによれば、日本は平均48回で最下位だったそうだ。一説には、昔は性に対して大らかだったのが、キリスト教的な道徳観が国外から持ち込まれ、性に対して閉鎖的になったという。そのわりには、キリスト教の一派カトリックの総本山たるバチカン市国を保護するイタリアが、同データで平均121回と上位に食い込んでいるのは、どうしたことか。『今だからこそ知りたい結婚と性行為の歴史』(鳥山仁/三和出版)は、現在のイタリアの地に栄えていた古代ローマを端緒に、日本に影響を及ぼした古代中国の儒教や道教も交えながら、日本における結婚制度と性行為にまつわる歴史を教えてくれる。

 古代ローマは現代の感覚からすると、極端な男尊女卑の社会だったという。さぞ女性は虐げられ苦労したであろうと想像されるが、男性にも苦労はあったようだ。例えば「ローマ市民男性はセックスの最中にもイニシアチブを握るべし」というルールがあり、同時に口は神聖な器官という宗教観があったため、相手に奉仕するクンニリングスなどをしたことが明らかになると、選挙権を剥奪され下層民に落とされてしまったそうである。奴隷制度がある時代に、これはそうとう恐れられただろう。とはいえ性に対してはオープンで、その一因は多神教により性衝動が「神々からもたらされる贈り物」と考えられ、『恋愛術』という紀元前の恋愛指南書には、キスをしたら「力づくでものにしていい」と書かれていたのだとか。口が神聖な器官という価値観を知らなければ、強姦を推奨しているようにしか読めない。

 昔の日本はというと、神道や土着の神々の他に仏教までも取り込む文化面が古代ローマと似ているものの、女性が政治の重要な位置に就いたり女流作家が活躍したりと、女性の地位が必ずしも低くはなかった。だからだろうか、江戸時代には武士や農民で制度が違うものの、新郎なり新婦なりが相手の家に住み込み、妊娠してから婚姻が決まるというケースは共通であったらしい。一歩間違えば強姦まがいの、夜這いの風習を著者は「実体はよく分かりません」と断定的な言及を避けているが、相性を知ってから結婚する手段だったのかもしれない。戦国期に来日した宣教師ルイス・フロイスは、「日本の女性は処女の純潔を少しも重んじない。それを欠いても、名誉も失わなければ、結婚もできる」という記録を驚きとともに残している。さらに、キリスト教では結婚は神の導きによるものなので離婚は基本的に禁止しており、子供ができなければ簡単に離婚していたという当時の日本の文化は、外国人、ことにキリスト教徒からしたら性の乱れた国に映ったに違いない。

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 他に本書では、男性同性愛のことが古代ローマと昔の日本の共通の話題として幾度となく出てくる。というのも、古代ローマにおいては同性愛者を意味する単語が存在せず、社会的にタブーではなかったようで、同様に日本においても、有名な戦国大名が妻を娶りながら男色だったというのは多くあったからだ。

 ここで興味深いのは著者独自の視座で、現在の日本国憲法において「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」と同性婚を否定しているように読み取れる条文が、キリスト教の聖書の影響下にあることを示唆し、日本の文化を尊重するはずの保守層が同性愛に対して寛容さを欠いていることを「珍現象」と述べている。昨年に渋谷区が、同性カップルを「結婚相当」とする条例を成立させた背景とあわせて考えてみると、なかなかに興味深い話が多く、まさに「今だからこそ知りたい」と思わされた。

文=清水銀嶺