架空の祭りを現実にしてしまうアニメの底力! 「聖地巡礼」の経済効果は地方の未来を救えるか!?

社会

公開日:2016/7/27

『アニメが地方を救う!? – 聖地巡礼の経済効果を考える』(酒井 亨/ワニブックス)

 日本の人口減少が、止まらない。2016年6月1日現在、日本の総人口は1億3000万人弱で、前年同月より16万人も減少しているという。しかも7年連続の減少であり、10年後には700万人もの人口が減るといわれている。だが首都圏に関していえば逆に増加しており、人口の一極集中が深刻だ。人口の50%以上が高齢者となる「限界集落」や、閉店した店舗の多い「シャッター通り」も地方で叫ばれて久しい。何も手を打たなければこの状況が加速していくことは間違いないが、では一体どうすればいいのか。

 もしかしたらその対策になるかもしれないのが、アニメだ。『アニメが地方を救う!? – 聖地巡礼の経済効果を考える』(酒井 亨/ワニブックス)ではアニメによる地方活性化の可能性を、著者の現地取材などによって検証している。

 ところでタイトルにある「聖地巡礼」とは何か。アニメでは架空の国や土地が舞台となるケースのほかに、実際の地名や市区町村が登場する場合もある。架空であっても、モデルとなった場所が存在することが多い。そういったアニメに登場した実際の場所を探訪すること、それが「聖地巡礼」と呼ばれる。なぜ「聖地巡礼」かといえば、本書ではアニメのロケハン地などは「ファンにとっては敬虔な信者にとっての宗教聖地と同等の価値を含んでいる」からだと語る。

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 ではその「聖地巡礼」が、本当に地方経済の活性化に寄与しているのか。本書で大きく取り上げているのが『花咲くいろは』というアニメ作品での試みである。

 この作品はアニメ制作会社・ピーエーワークスが制作し、2011年4月から9月まで放送された。主人公の少女が温泉街の旅館で仲居として働く姿を描いた青春ストーリーだ。この中に登場する「湯乃鷺温泉(ゆのさぎおんせん)」が、石川県の「湯涌温泉(ゆわくおんせん)」をモデルにしており、放送開始以降、多くのファンが訪れるようになった。放送以前は減少傾向だった観光客も、2012年度は前年を4000人以上も上回ったという。

 さらに特筆すべきは、アニメに登場した架空の祭り「ぼんぼり祭り」が実際の祭りとして開催されたことである。イベントは2011年から毎年行なわれているが、第1回から5000人のファンが訪れ、第5回にはなんと1万4000人を動員したのだ。狭い温泉街において1日の集客としては、まさに前代未聞のことだという。

 これだけの効果があるなら、他の地方でも積極的に誘致すればよいと思われるかもしれない。しかし『花咲くいろは』のようなケースはむしろ例外といってよく、すべてがうまくいくとは限らないのだ。例えば『輪廻のラグランジェ』という作品は千葉県の鴨川が聖地だが、作中で「鴨川」が連呼されたことをファンが否定的に反応したり、NHKの番組であたかも失敗のように取り上げられたりするなど、成否の判断は微妙。さらに『メガネブ!』という作品は「めがねのまち」を標榜する福井県鯖江市を舞台にしているが、作品の評価があまり上がらず、盛り上がらないまま終息してしまった。

 著者は「聖地化」への関門として、まず制作会社に聖地として選ばれるかは運次第だと述べる。そして仮に選ばれたとしても、作品の質がそれなりに高くなければ、人気が出ないまま終わってしまう。さらに人気が出たとしても、作品のファンと地元(行政や商工会など)、コンテンツ製作側の連携がうまくいかないと失速してしまうのだ。

 多くの難しさを抱えた「聖地巡礼」による地方活性化だが、成功のリターンは大きい。『ガールズ&パンツァー』という作品は茨城県大洗町が舞台だが、地域では頻繁にイベントが行なわれ、そのたびに多くのファンが現地を訪問。赤字路線だった鹿島臨海鉄道を黒字へと押し上げた。また大洗町のふるさと納税額は2億円にものぼるという。今期も『ラブライブ!サンシャイン!!』の静岡県沼津市など注目の場所も多く、地方自治体による「聖地化」への取り組みは一層増えていくに違いない。

文=木谷誠