不倫に溺れる女性たち。「女の本当の幸せ」とは何か?

文芸・カルチャー

公開日:2016/7/29

『不倫』(パウロ・コエーリョ/KADOKAWA)

 昨今世間を賑わせた不倫騒動。
幸か不幸か、その真っただ中で発売されたのが、パウロ・コエーリョ著『不倫』だ。

『ベロニカは死ぬことにした』にて女性の細やかな心情と取り巻く環境を描写したコエーリョ。本作もまた女性を主人公に、衝撃的なテーマで物語を展開していく。

 結婚10年目。31歳。裕福で自分を心底愛してくれる夫、かわいい2人の子供、何不自由ない生活を送るキャリアウーマンの「リンダ」。しかし仕事のあるインタビューをきっかけに、彼女の心の中にひとつの疑問が生まれる。「―これでいいの?」

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 そんな時、彼女は昔のボーイフレンドであり、魅力的な若き政治家「ヤコブ」に出会ってしまう。自分の人生にわずかな綻びを感じていたリンダの手を引くように彼は言う。「君は幸せなのかい?」と。
その日を境に、リンダはヤコブとの禁断の関係がはじまる。許されないことと知りつつ不倫に溺れていくリンダの運命は……

 
 本作の見どころは「何不自由ない生活を送っている」と自分で語るにも関わらず、禁断の関係に溺れていく女性のリアルな心情の変化。そして淡々と語られる文章のところどころで描かれるエロティックな性描写だ。

男が欲しい、キスしてほしい、わたしにのしかかる体から、痛みと歓びを感じたい…
『不倫』本編より

 コエーリョはもちろん男性だが、リンダの一人称で展開される物語は女性の視点そのもの。家族という存在と、自分の中にある「女性としての喜び」苦悩し続ける彼女の葛藤が、特あなたが女性であれば、よりリアルに伝わってくるのではないだろうか。

男が浮気をするのは、遺伝子にそう組み込まれているからだ。女が浮気をするのは自尊心に欠けているからだ。そして女は身体だけでなく、どうしたって心の一部をも差し出してしまう。それは真の罪だ。浮気がばれたとき、癒しがたい打撃を家族に与えてしまうから。男にとって、それは<馬鹿げた間違いでしかない>……

 この文章を読み、どこかで耳にした「体だけの関係を続けていくと、いつかは女性だけが心も溺れてしまう」という話が頭をよぎった。半信半疑ではあったが、それは少なからず世界で共通する事象なのかもしれない。「不倫」における女性の立場、コエーリョは全編に渡りその存在の危うさを描いていた。

 
 
 冒頭で述べたように、昨今「不倫」という行為のタブーさが急激に取り沙汰されるようになった。「不倫は文化」であったり、「3年目の浮気」であったり、男性の『浮気』という行為に多少なりのコミカルさが含まれた日本の世の中は、少しは変わってきたのかもしれない。それとも、ドラマ「昼顔」が大ヒットしたように、女性が男性と同じように自分の性的欲求をさらしていくことに共感が得られてきたのだろうか。

不倫をする人たちを責め、場所が場所ならもっとひどい罰を受けていたはずだと思っていた。まさか自分に番が回ってくるとは思いもせずに。いざ自分に番が回ってくると、自分だって幸せになる権利はあるはずだと弁解する。だって、ドラゴンを退治する騎士なんて童話の中にしかいないんだから。

 一人の女性として、この作品にはハッとさせられる心情描写が山のようにあった。「愛するもう一人の存在」と出会ってしまったとき、自分はどうするのか、どう感じどう行動するのか。本作を読んだ女性にも、もちろん男性にも思い悩んでいただきたい。

何があろうと避けてきたその瞬間がとうとうやってくる。彼と一緒になるか、永遠に別れるか、どちらかを選ばなくてはならない瞬間が―――

 
 不倫という禁断の関係の末に見出した、一人の女性の究極の選択。結末は、あなたのその目で見届けてほしい。

 

パウロ・コエーリョ 不倫

『不倫』

パウロ・コエーリョ

世界的ベストセラー作家の刺激的な新作! リンダは仕事にも家族にも恵まれ幸せに暮らしている。しかし自分の中の深い悲しみと不満に気づいてしまったとき、政治家となった高校時代の元彼、ヤコブと再会。リンダは危険な道に足を踏みいれていく……。

  

パウロ・コエーリョ

【著者プロフィール】

パウロ・コエーリョ(Paulo Coelho)
1947年ブラジル、リオデジャネイロ生まれ。現代において最も影響力のある作家の一人。ブラジル文学アカデミー会員。著作の多くが世界的ベストセラーとなり、80か国語に翻訳され、これまで170か国以上の国々で1億9000万部以上を売り上げた。フランスのレジオンドヌール勲章を受章している。2007年には国連ピースメッセンジャーに指名された。また彼のソーシャルメディアは記録的なフォロワー数を誇っている。