YouTubeで見つけたわたしにそっくりの女性は、生き別れたふたごだった――ネット社会が生んだ奇跡の実話『他人のふたご』

社会

公開日:2016/8/3

『他人のふたご』(アナイス・ボルディエ、サマンサ・ファターマン:著、羽田詩津子:訳/太田出版)

 世界には自分と似た人が3人はいるといいます。もしあなたがインターネットの検索をしていて自分と似ているどころか、同じ目、同じ色の肌、同じ長さと色の髪、同じ鼻で同じ微笑みを浮かべる瓜二つの人間を見つけてしまったらどうしますか?

 これは実際にあった出来事です。2012年、フランス人のアナイスは友人からYouTubeで見つけた自分とそっくりな見知らぬ女性の写真の投稿をFacebookに受けます。アメリカに住むまったく関わったことがないその人が自分とすべて同じ姿であることに驚きを隠せないアナイス。ネットで見ているこの女性は本物の人間なのか、親戚なのか、はたまた詐欺師なのか。そんなハラハラした展開から始まる驚くべき真実の物語が『他人のふたご』(アナイス・ボルディエ、サマンサ・ファターマン:著、羽田詩津子:訳/太田出版)です。

「似た人がいる」。それを知ったときアナイスは自分の境遇について考えます。フランス人であるアナイスですが、実は生まれたのは韓国で、出生後すぐに養子としてフランス人の現在の両親に迎えられたという過去があるのです。しかし相談した養親から見せられたのは養子縁組協会から受けた「単胎分娩」(ひとりの胎児を出産すること)の記載がある出産証明書。「では、この女性は何者だろう」。

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 何らかの事情で実の親によって育てられない子供が、子供を迎えたいと希望する人と法律上新たに親子関係を結ぶことを「養子縁組」といいます。国内で良い縁が見つからなかった場合には国際養子縁組制度により海外に住む家族に迎え入れられるケースもあります。ただし、国際養子縁組は子供が新しい家族に出会えるチャンスを広げるメリットがある一方で、養子縁組を結んだ後、どうなったか知ることが難しいという問題点も抱えています。

 アナイスの出生国である韓国は“養子輸出大国”や“孤児輸出国”と呼ばれています。昨今は新たな考え方が出てはいるものの未婚で子供を持つことは恥であるという考えがあり、一族から村八分にされたり、就職が困難になったりといったケースも少なくありません。このため未婚で妊娠するとこっそりと離れた地で出産し養子に出す女性が少なくないのです。

 日本同様に血縁を大切にする韓国では国内で子供たちの受け入れ先が見つけられず、海外へと養子に出されるケースが多くあります。特にアメリカは養子を迎え入れることに対してオープンで、人種も障害の有無も問わずに子供を迎えたいという人が多いといいます。キリスト教的な、見返りを求めない福祉の考えがベースにあるからです。1950年代初めから韓国で海外に“輸出”された子供の4分の3がアメリカに渡っているといいます。

 アナイスとそっくりな女性はアメリカ人でした。映画『SAYURI』で主人公の姉役を演じたサマンサ・ファターマンです。サマンサも韓国生まれでアメリカ人の現在の両親のもとに養子に来た過去があります。

 YouTubeでの発見によりつながった2人はその後、SNSで連絡をとり、Facebookでお互いを確認し、メールでさまざまな話をし、スカイプで顔を合わせ二人の関係が双子であることを確証し合います。韓国で生まれ、アメリカとフランスという別の国に渡りまったく関わりのない人生を送っていた2人に起きた“再会”は、まさにネット社会の現代だからこそ叶った奇跡なのです。

 本書では養子の現状、未知である自分の起源、再会に際しての両親への想いなどについての本音も、驚くべきこの奇跡への喜びの声とともにそれぞれの言葉で交互に綴られています。突然の奇跡に心揺れる2人の姿、DNA鑑定、「ふたご研究センター」所長による双子の最新研究と、綴られるすべての内容は“事実は小説よりも奇なり”の驚きと感動の連続です。

 日本では実親の想いや制度未整備、養子縁組を求める親の希望などの理由から養子縁組が進まず施設で育つ子供が多くいます。自分だけの家族を持つことができない子供の多さは国連から改善勧告を受けるレベルです。子供にとっての重要性から養子縁組が推進されている一方で、世界では養子ビジネスが行われているという事実もあります。子供を斡旋する業者と養親とをつなぐ仲介業者がいて不当な多額のお金がやりとりされることがあるのです。

 貧困、虐待、不妊治療などさまざまな課題に関わる養子制度。2015年7月にはアメリカで映画公開となった“輸出”ベイビーの奇跡の物語をきっかけに、幸せとは何かについて考えてみてはいかがでしょうか。

文=Chika Samon