恋人の死へのカウントダウンが「見える」僕。「人を愛する」意味をもう一度思い出させてくれる、青春恋愛小説が登場

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/14


『僕はまた、君にさよならの数を見る』(霧友正規/KADOKAWA)

ヒロインの名前は「美雨(みう)」。その名前のように、美しい雨のような繊細な涙を流せる、切なさと情感あふれる恋愛小説『僕はまた、君にさよならの数を見る』(霧友正規/KADOKAWA)が発売される。

主人公の佐々木直斗(ささきなおと)には、不思議な力があった。それは「人生の残り時間が少なくなった人に触れると、その残り時間が『数字』として目に見えるようになる」こと。

大学生になる直前、直斗は桜の舞い散る公園でひとりの少女、峯原(みねはら)美雨と出会う。「この池のボートにカップルで乗ると、そのカップルは別れてしまう」というジンクスを検証してみたいと、おかしなことを申し出る美雨に、戸惑いながらも付き合う直斗。そうして、一時の「恋人同士」になった2人だったが、直斗の目には、美雨の頭上に浮かぶ「300」という数字がはっきりと見えていた。

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その2日後、医学部に進学した直斗の前に、「元恋人」となったあの美雨が現れる。なんと、彼女も同じ大学に進学していたのだ。もう会うこともないと思っていた変わった少女との邂逅に直斗は驚いたが、それよりも気になったのは頭上の数字「298」。彼女の寿命が減っていることを確信し、直斗は衝撃を受けるのだった。

美雨の寿命が見えている直斗は、はじめは彼女に関わらないようにしていたが、惹かれる気持ちを抑えることはできず、出会ってまもなく2人は本当の「恋人」になる。気の合う大学の友人に囲まれ、デートを重ね、恋人らしいイベントをして、幸せいっぱいの2人。

けれど、月日が経ち、思い出が増えていくことは、直斗にとって、恋人との永遠の別れを意味していた。やがて自分にしか見えていなかった「カウントダウン」が、現実味を帯びて2人を襲うこととなる。

「僕の見る数字は静かに時を刻み、『0』に至れば彼女は死ぬ」
「『0』――それは絶対の死を示す、さよならの定数」

本作は常に哀しみを湛えている、主人公とヒロインの「別れ」が約束されている物語だ。だが、直斗と美雨の初々しく可愛らしい関係や、2人を取り囲む大学の友人たちとの青春模様が、それを忘れさせてくれる。美雨の頭上に浮かぶカウントダウンさえなければ、甘酸っぱく爽やかな恋愛ストーリーなのだ。

個人的に、この物語は「シンプル」に感じられた。これは、「単純でありきたり」という意味ではない。奇をてらい、様々な仕掛けを施した小説も世の中にはあるが、本作は「シンプルに、心を打つ」作品だった。複雑ではないからこそ、お互いを想う気持ちが、心の奥深くまで響く。とても読みやすく、素直に感動することができた。

ネタバレになってしまうので詳しくは書けないが、主人公に見える数がページをめくる度に減っていく「カウントダウンの細工」もかなり効果的だ。最後のページにたどり着いた時、きっとあなたも「この小説を読んでよかった」と心の底から思えるだろう。

文=雨野裾