濃厚エロス満載!「カネとオンナと権謀術数」が渦巻くファンタジー・スパイアクション!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/14


『リラム~密偵の無輪者~』(神野オキナ:著、西E田:イラスト/KADOKAWA)

スパイを扱った娯楽作品といっても、「007」シリーズのような派手なアクションと心躍るガジェットが多数登場するヒーロー活劇もあれば、『裏切りのサーカス』のようなスパイとの心理戦をメインに描く社会派サスペンスもある。華々しい活躍を見せるスパイと裏稼業として暗躍するスパイ……皆さんはどちらがお好きだろうか?

ノベルゼロから刊行された『リラム~密偵の無輪者~』(神野オキナ:著、西E田:イラスト/KADOKAWA)は、双方のいいとこ取りをしたファンタジー・スパイアクションである。舞台は、消失した国家に代わる経済集団「圏(エスティズ)」が覇権を争う世界。主人公のレイロウはヒウモト圏の権力者の次男でありながら、お家騒動でロキオルス圏に追放された亡命者だ。今もなお暗殺集団に命を狙われながら、やがて圏と圏をめぐる大きな陰謀に巻き込まれていく。

暗殺集団を次々と葬る戦闘能力を持ち、女性をいともたやすく手籠めにしていくレイロウは、ジェームズ・ボンドも顔負けの超人的なスパイヒーローでありプレイボーイだ。何よりスゴイのは、彼が房中術を極めているという点。房中術とはつまり、性行為によって相手の心と体を虜にし、さらに強靱な肉体を与える医術のこと。レイロウはいわば“性技のスペシャリスト”なのだ。女スパイも彼の手に掛かれば、自らいろんな意味で口を開いてしまうほど。その房中術がいかに優れているかは、様々な場面でお目に掛かることになるので、ぜひ期待してほしい。濃厚なエロスが満載なのも本作の特徴である。

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そして、レイロウのプレイボーイっぷりが発揮されるとあれば、“ボンド・ガール”ならぬ“レイロウ・ガール”にも期待が高まるはず。そこは安心してほしい。取り巻きの2人が実に魅力的なのだ。

一人は、エルフの女王的な立場であったにもかかわらず、レイロウの侍女となったリンザ。冷徹な瞳と強靱な肉体を持つ彼女だが、ひとたびレイロウを前にすればまるで乙女のように無垢な表情を見せる。甲斐甲斐しく寄り添い、自らの肉体を喜んで差し出す姿は、なんとも愛らしい。もう一人は、レイロウを匿うロキオルス圏の姫のような存在であり、物語を大きく動かしていくマリエイラだ。虚弱な少女だった彼女はレイロウの房中術によって健やかな肉体を手に入れ、今ではロキオルス圏を他圏の侵略から守ろうと権謀術数を巡らすまでに。強気になった姫君が切なそうにレイロウを求める……そのギャップもそそられるものがある。

さて、レイロウはロキオルス圏を守りたいというマリエイラの密命を受け、他圏との戦争を回避しようと暗躍することになる。一体誰が敵で、誰が味方なのか。この世界には人の動き、金の動きがすべて数式化される装置があるため、暗殺でも同盟でも戦争でも、何か行動を起こす際にはすべての費用がわかることになっている。この数字をもとに誰が得をし、誰が損をするのか見極めながら、レイロウは複雑な情報戦の中で交渉、戦闘、ハニートラップを仕掛けていく。

ともすれば地味になりがちな大国(圏)間の謀略や経済的駆け引きを、ダイナミックでエロスなスパイアクションに昇華した本作。二重三重の仕掛けが用意されているので、きっと読者もレイロウの術中にハマってしまうのではないだろうか。

文=岩倉大輔