SFって何だ!? これだ! 10代・20代のうちに読むべき小松左京のベストセレクション

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/14

 筒井康隆、星新一らと並んで、日本SF小説の黄金時代を築きあげた作家・小松左京。没後5周年にあたる今年、その代表作を2巻にまとめた電子書籍オリジナルのベスト作品集『小松左京短編集 東浩紀セレクション』『小松左京短編集 大森望セレクション』(KADOKAWA)が7月25日、同時リリースされた。

 長年小松作品を愛読してきた、という東浩紀と大森望が作品を選んだ今回のセレクション。選者の思い入れによって、カラーが大きく異なる2冊となっているのが面白い。以下、それぞれの収録作に触れながら、2冊の特徴を紹介してゆこう。

 まず『東浩紀セレクション』から。
 全15編収録、紙の角川文庫に換算すると700ページ超、というボリュームをもったこちらのセレクションは、小松ワールドの本領をビシビシと伝えてくる本格SFを中心としたラインナップだ。

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 冒頭に収められた「地には平和を」は、太平洋戦争が終結せず、本土決戦を迎えることになったもうひとつの日本を舞台とした仮想歴史SF。人類にとって歴史とは何か、という重い問いかけが、凄惨な戦争シーンとともに胸に迫る。こんな傑作が実質的デビュー作だなんて驚きだ。

「戦争はなかった」も戦争がテーマの作品。ある日、自分以外の人間から太平洋戦争の記憶がなくなっていることに気づいた主人公。本を調べても、日本は戦争なんてしなかったことになっている。どんどん孤立して、追いつめられてゆく主人公。悪夢のようなこの作品の恐ろしさは、戦争を体験した世代ならではものだろう。

「神への長い道」「結晶星団」「ゴルディアスの結び目」は、ストレートな本格SFの代表作。作中に散りばめられた科学知識・専門用語に萌えながら、論理的に展開する壮大なスケールの物語に打ちひしがれてほしい。トンネルを通じて明治時代と現代がつながってしまう「御先祖様万歳」、テレビクルーが大阪夏の陣を生放送しようとする「大阪夢の陣」あたりはエンタメ色が強く、SF入門編としても最適だ。

 一方の『大森望セレクション』は、ホラーや怪談、落語小説など、SF以外の作品も収録したバラエティに富んだ作品集。超人的なバイタリティで仕事をこなした小松左京の、引きだしの多さを感じさせる布陣となっている。

 まずは「夜が明けたら」「牛の首」「骨」「くだんのはは」などの傑作ホラーに注目。なかでも「本当にコワい!」とホラーファンの間で定評があるのは「くだんのはは」だ。空襲に遭い、高級住宅地・芦屋の邸宅に間借りすることになった主人公は、母屋の二階からときどき洩れてくる少女の泣き声を耳にする……。気味の悪い話なので、まだ読んだことがないという人はこの機会にぜひ。

 ほかにも、故・桂米朝師匠をモデルにした噺家が登場する落語小説「天神山縁糸芋環」や、アポロ11号着陸の瞬間マージャンにふけるSF作家たちをエッセイ風に描いた「一生に一度の月」、プラモに熱中する大人たちを描いてまるで現代を先取りしたような「模型の時代」、涙をさそうロマンティックな恋愛小説「旅する女」「流れる女」などなど、とにかく盛りだくさんの全15編。どこからつまみ食いしても美味しい、そんな贅沢なアンソロジーになっている。

 今回久しぶりに小松左京作品を読み返して、感じたことはふたつ。ひとつは優れたSFは古びないということ。収録作には1960年代、70年代に書かれた作品も多いが、テーマも表現もちっとも古くなっていない。むしろ赤紙とともに若者たちが消えてゆく「召集令状」(『大森望セレクション』所収)のように、現代性を増しているものすらある。
 もうひとつはSFはなるべく若いうちに読むべきだ、ということ。壮大なスケールで人類と世界のあり方を問い続ける小松SFは、いわば永遠の青春文学。もしあなたが10代や20代なら、この2冊に描かれているテーマに、深くシンクロできることだろう。もちろん30代以上の読者も大歓迎。かつて熱中した作品も、電子版で読み返してみるときっと新たな発見があるはずだ。

 SFの巨人が遺したまばゆいばかりの傑作群、この夏休みに味わってみてはいかがだろうか。

文=朝宮運河