金メダリスト金藤理絵選手を突き動かした“良い怒り”とは?

スポーツ・科学

公開日:2016/8/20

写真:AP/アフロ

 「五輪の借りは、五輪でしか返せない」といわれるように、4年に1度しか行われないスポーツの祭典は、アスリートにとって特別な舞台です。世界選手権など五輪以外の大会とは違い、国を背負っている意識は比べものにならず、プレッシャーも半端ではありません。そんな大舞台での悔しい思いを晴らすために、4年間を頑張り続けなければならないのだから、アスリートのメンタルは並み大抵なものではないでしょう。それが、2大会、8年ぶりともなれば、普通は苦しくて、思いを持続できず、ギブアップしてしまいます。

 ところが、諦めなかった女性がいます。リオデジャネイロ五輪競泳女子200メートル平泳ぎで、1992年バルセロナ大会の岩崎恭子以来6大会ぶりの金メダルを獲得した金藤理絵選手(27)です。

 19歳で2007年の北京大会に出場。メダルが期待されましたが、7位入賞止まりでした。2012年のロンドン大会でのメダル獲得へ向け、前を向き始めた2010年に椎間板ヘルニアを患い、その影響で本命視されていたロンドン大会に落選。引退の2文字がちらつき始めました。その後、毎年のように引退を口にしながらも、加藤コーチをはじめ、多くの人の励ましを受け、今回の五輪に出場。初の表彰台で一番高いところに上がったのです。

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「怒り」とは、とても強いパワーを持っていることは何度も書きました。その「怒り」には、「悪い怒り」と「良い怒り」があります。「悪い怒り」とは、たとえば、ホームで肩と肩がぶつかって、相手をホームから突き落としてしまった。また、ある会社員が入社当時、社長から嫌味を言われ、それをずっと根に持っていて、会社を辞めるときにその社長を刺してしまった、などが挙げられます。一方、「良い怒り」とは、彼氏に振られた女性が、「きれいになって見返してやるわ」と思ったり、受験に失敗した学生が、「来年こそは受かってやるぞ!」と猛勉強をしたりすることです。つまり、エンジンやエネルギーになるものです。

 金藤選手が持ったのは「良い怒り」に他なりません。何度も何度もくじけそうになりながら、その都度、前を向けたのも、「良い怒り」からのエネルギーをパワーに変えられたからです。パワーに変えて、そのパワーを持続するには、「やらされている」というような受動的なものではなく、「自分からやる」という能動的な「行動」をとらなければなりません。椎間板ヘルニアを筋力トレーニングで克服できたのも、積極的で能動的な「行動」をとらなければ無理であり、出場した北京大会から8年間も“思い”を維持できなかったでしょう。

 金藤選手をはじめ、それぞれのアスリートがそれぞれの「ドラマ」を持って臨んだ五輪。予想以上のメダルを獲得したことを思えば、ロンドン大会よりすべての面で向上したことは間違いありません。とくに、年齢的に若い選手が大舞台でも物怖じしないパフォーマンスできるシーンを見れば、メンタル面での強化も十分になされています。2020年の東京大会がますます楽しみになったリオデジャネイロ大会でした。

文=citrus瀬戸口 仁