大学生に片想いする小学生の女の子。だけど、相手は自分のことを「男の子」だと思っていて……。

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/14


『静かの海 あいいろの夏、うそつきの秋』(筏田かつら/宝島社)

 第4回ネット小説大賞受賞作の『静かの海 あいいろの夏、うそつきの秋』(筏田かつら/宝島社)は、子どもの頃のまっすぐな「好き」を思い出させてくれる、小学生の女の子と大学生の、切ない片想いの物語だ。

 小学6年生の鴫原真咲(しぎはらまさき)は、藍色のランドセルを背負ったボーイッシュな女の子。父親を亡くし、母親と共に地方から都会へと引っ越して来た。見知らぬ土地には不慣れだし、母親は仕事で忙しく自分にあまり興味を持っていない様子、転校先の学校では友達ができないままで……。心に穴が空いているようなさみしい時に、大学4年生の矢野行成(やのゆきなり)と出会った。行成は内定先が決まっていたが、一方的にそれを反故にされ、憤りと、将来への不安を感じていた時だった。

 それぞれに悩みを抱える2人は、「近所に住む年の離れた友人」として親睦を深めていくが、つらい時、悲しい時、いつも心に寄り添うような言葉をくれる行成に、真咲はほのかな恋心を抱くようになる。

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 初夏に出会い、盛夏にはお祭りへ。金魚の透明標本を一緒に作り、野球観戦にも行く。一緒の時間を重ねるごとに、真咲の行成への恋心はますます大きくなっていくだが、行成は真咲を「マサキ」という男の子だと思っており、年の差以前の問題で、恋愛対象としては見られていない。

 真咲は自分が女の子だと行成に知られたら、行成のアパートに通って遊ぶような、親しい友人関係が壊れてしまうのではないかと危惧して、本当のことを言い出せずにいる。

 絶望的な片想いをしている中、学校でも事件が起きる。クラスメイトの男の子から好きだと告白されたり、真咲の机の中に、「死ね、バカ」と書かれた紙が入っていたり、クラスの中心人物だった女子が突然仲間外れにされたり……。

 学校での様々な出来事に加え、行成に彼女ができたことを知る真咲。悩み、苦しみながらも、「好き」という感情を抑えることができない。

「絶対ふり向いてもらえないってわかってるのに、でもやっぱり好きなの。ダメだ、ダメだ、って思うほど、どんどん好きになっちゃうの。そういうときってどうしたらいい?」

 少し冷めたところのある真咲が、感情を吐露したこのセリフには、じーんとして、思いきり感情移入してしまった。子どもでも、大人でも変わらない「好き」があるんだと。

 本作は次巻へ続き、完結を迎えるそうだ。

 昨今、一冊で物語が終わってしまう小説が多い中、本作は続き物ということで、真咲の生活や揺れ動く感情、小学校の授業風景やクラスメイトとのやり取りなどが丁寧に描かれているところもおもしろく、内容が濃く感じた。自由研究や、家庭科の授業などの描写が、「そう言えば、そんなことした!」と懐かしい気持ちにさせてくれる。

はたして、小学生の純粋な「好き」という想いは、大学生の行成に届くのだろうか? 楽しみに、次巻を待ちたいと思う。

文=雨野裾