ヌードでなくても漂うエロス! 池永康晟、山本大貴…いまの日本美術界における最先端の美人画・妖艶美を1冊で堪能できる幸せ

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13


『現代画家が描く 美と幻想の世界―妖しく美しい女性たち―』(綜合図書)

美人を前にし、その姿を微に入り細に入り眺めることは、まずできない。第一たいへん失礼に当たるし、現実の美女がこちらの思い通りの角度で静止してくれることもない。しかし、絵のなかの美女であれば飽きるまでその姿を見つめることができる。ひたとこちらを見つめ返してくる美女がいる。見られていることに気づかずうたた寝する美女がいる。後ろ姿で何かを語りかけてくる美女もいる。

現代画家が描く 美と幻想の世界―妖しく美しい女性たち―』(綜合図書)には、池永康晟、山本大貴、森口裕二ら、当代を代表する16人の人気画家が描く女性像がフルカラーで収められている。ページをめくるたびに現れる美女、美女、美女……。本書を企画し、作家のセレクトも担当した編集者・小林智広さんは、「いまの日本で最先端の美人画、妖艶美を1冊にパッケージングしたかった」と企画意図を語る。

小林智広さん(以下、小林)「女性に理想の美を見るというのはいつの時代においても普遍的なことで、それを描くのもまた普遍的です。だからこその難しさもあって、自身のなかにある理想の女性像を描くにしても、それを突き詰めると全部同じ女性になってしまう。でも、いま美術ファンに支持されている作家さんたちは、差別化をものすごく意識されているので、ここで紹介した作品はひと口に美女といっても、それぞれに個性的。そして、いまという時代も反映しています」

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いま最もアツイのは、写実画

写実画、日本画、イラストなど多様な手法で描かれた女性像を紹介するなかで、最も日(こんにち)的なのは写実画だ、と小林さんは続ける。

小林「2010年代初頭から写実画のブームがあって、千葉県にあるホキ美術館がその火付け役ですね。ここでは巨匠から若手まで国内の作家約50人が描いた400点の写実絵画を所蔵し、展示しています。このジャンルにおいて、同時代、ひとつの国にここまで実力のある作家がそろうこともめずらしいそうです。いま中心となって活躍しているのは40~50代の作家さんたち。創作において脂がのっている時期ということですね。それにともない、女性をリアルに描くというムーブメントも見られるようになりました」

山本大貴 左=「Waiting II」、右=「夏霞」

何カ月、ときに中断をはさみながら何年もかけて描かれる写実画は、もはや神ワザ。書き込まれた一本一本の髪の毛に見入るうちに、リアルなのに現実ではない、幻想の世界にはまり込んでいく。

小林「浮世絵にも数々の美人画がありますし、日本人は古くから伝統的に女性を描いてきました。でも、画家であれば誰でも女性を魅力的に描けるかというと、そうともかぎりません。私の経験でも、別ジャンルで名の知られた作家さんに女性単体のイラストをオーダーしたところ、予想外の仕上がりにガッカリ……といった経験があります。女性が好き、そのラインが好き、取り巻く空気が好きで、とにかく女性を見たい、その身体を見たいというシンプルな欲求がある人。さらには、女性から発する何かをキャッチできる人の描く女性像は観る人を惹きつけます」

本書では女性作家、男性作家両方の作品が収録されている。

小林「女性が描く女性像と、男性が描く女性像とでは、目線が違うように感じます。一般的にいって女性にとって女性であることは現実なので、理想化するのは難しいのでしょう。その代わり、女性の内面にある怖さや凄みのようなものを絵に落としこむのは、女性ならではですよね。内側から色めきたつような、香り立つようなものを私たちに見せてもらえます」

ヌードでなくても漂うエロス

「妖しく美しい女性たち」というサブタイトルから裸婦像を連想した人もいるかもしれない。が、ここではヌードというほどのヌードは見られない。

小林「描く側にとっても観る側にとっても、いま求められているのは裸婦像ではなくて“女性像”だと感じています。その女性像のなかにヌードが含まれることもある、という程度。生々しくて濃厚なヌードを見たいのであればネットの世界にいくらでもあるご時世、絵画の世界ではそうしたあからさまなものよりも、より美しいもの、より幻想的なものを描きたいし、観たいという傾向があるのかもしれません」

肌の露出がまったくなくても、漂ってくるエロスもある。本書の表紙に描かれた池永康晟「花迷彩・穂波」の女性がまさにそうである。

小林「目の強さが魅力的ですよね。池永さんの作品に描かれる女性はこれまで決まって“どこか”を見ていましたが、本書のインタビューでお話しいただいたとおり、最近は絵のなかの女性と視線がぶつかり合うような絵を描きたいという気持ちが強くなっているようです。何かを訴えかけてくるような目を見た瞬間、『コレだ!』と思い、表紙にしました」

現実にいそうでいない、だからこそ目が離せなくなる。恋しても決して手の届かない女性ほど、美しいものはない。

文=三浦ゆえ