東野圭吾最新作『危険なビーナス』  弟が失踪?そう告げてきた“弟の妻”に、兄は恋をして……。

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13


『危険なビーナス』(東野圭吾/講談社)

手嶋伯朗のもとに、楓と名乗る女性から電話があった。彼女は、伯朗が長年没交渉だった弟・明人の妻であると名乗り、明人が失踪したと告げる。その失踪の原因を探るべく、資産家である明人の実家・矢神家に近づきたい、ついては伯朗に協力を頼みたいという。伯朗にとって矢神家は母の再婚先でしかなく、母が亡くなった今ではほとんど縁を切っていたのだが、はからずも遺産を巡るゴタゴタに巻き込まれて……。

危険なビーナス』(東野圭吾/講談社)は、曲者揃いの資産家一族に一般庶民の女性が子連れて嫁ぐとか、そこで生まれた息子に一族の長の期待がかかり連れ子は自らの立場を自覚するとか、要素だけ見るときわめて大時代的な設定と言っていい。だがそれを違和感なく読ませるのが東野圭吾のストーリーテリングの上手さだ。面倒な資産家一族とは距離をとって一庶民として堅実に暮らしていたのに、再び近づかざるを得なくなった、その〈半部外者〉的立ち位置が読者の視点とマッチするため、すんなりと入っていける。

さらに、危なかしいほどに明るい楓が、それら大時代的な設定を引っ掻き回していく様子が小気味いい。この楓がまた謎めいていて、かなり危なっかしいところもあるのだが、それがわざとなのか天然なのかわからない。もちろんそれも著者の計算のうち。彼女が何を考えているのか、これも全体を貫く大きな興味のひとつになっている。

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物語は明人の失踪を追うというところから出発するが、次々と他の謎が現れ始め、読者を翻弄する。どこに連れて行かれるのかわからない興味と、そこにつながるのかという快感。〈弟の妻〉に恋してしまった主人公の胸のうち。読みどころは多いが、中でも、求めていた謎と与えられる手がかりのズレ、それらが行き着く真実のさらに絶妙なズレが本書最大の魅力だ。何気ない回想シーンなどにも伏線が仕込まれているので、ゆめゆめ油断なきよう。手に汗握るクライマックスから、驚きの真相までは一気呵成だ。

サスペンス、サプライズ、カタルシス、そしてロマンスまでまぶした東野圭吾の新作。なんとも贅沢な一冊である。

文=大矢博子

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