「◯◯」と3日間言い続けるだけ!勉強嫌いの息子をやる気にさせた、“室井佑月のホステスの経験”とは?

出産・子育て

更新日:2016/9/23


『息子ってやつは』(室井佑月/毎日新聞出版)

 「親子で受験という名の面白いジェットコースターに乗った感じだ。もう一度乗りたいと思っても二度目はない」。フリーマガジン『5L』で好評連載中のエッセイをまとめた『息子ってやつは』(室井佑月/毎日新聞出版)は、息子の小3から高1までの8年間を、母と作家の両方の目で観察し続けた室井佑月氏ならではの目からうろこの受験奮闘記だ。

 作家でありタレントとしても活躍する室井氏。「人生は博打」という信条で勝負してきたが、子どもが生まれてからは「人生は安心、安定、穏やか」が一番。「息子に関してはかなり心配性だ」という。

 願うのは一人息子の将来の幸せ。「コネも資産もないあたしがしてやれるのは、勉強嫌いに勉強をさせ、ちょっと自慢できる学歴を作ること。武器はひとつでも作っておいた方がよい」と、中学受験に挑むことを決め、4年生からの塾通いが始まった。

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 さて、どうしたら勉強嫌いの息子をやる気にさせられるか? ズバリ「あんた勉強が好きだから」という言葉を繰り返し使うのがミソだ。地道に3日間言い続けてみると…。「さあ勉強すっかな。オレって勉強好きだよな」と机に向かうようになったという。「男は洗脳されやすく、挫折に弱い。何冊もの育児書よりホステスの経験が役に立った。息子は小さくても男であるから」とは室井氏ならでは!

 うまく息子を乗せながら、勉強を見てやる毎日。自分の仕事は徹夜でこなす。それでも塾まかせにせず、室井氏は一緒に闘う。努力すれば偏差値が上がることを学んでいく息子に「将来やりたいことのために努力できる男になってほしい」と母は願う。

 受験生の日々は肉体的にも精神的にもキツイ。受験の意味を自問自答しながら、室井氏は「もう勉強しなくていいよ」と言いたくなる気持ちと葛藤する。少子高齢化や格差社会など、この厳しい世の中で、そこそこの会社に就職できたとしても、明るい未来はあるのだろうか…?

 「息子は中学から寮のある学校へ入ることを希望しているが、もちろんそれには親のあたしの意見がかなり入っている」と、志望校選びについて室井氏は語る。「世の中がどんな風になろうとも、自分の居場所を見つけられるような逞しい男になってほしい」と、息子の将来を考えたうえで、すべての進学先を、飛行機を使わなくては行けない場所にある地方の中高一貫校に決めたのは、母である室氏なのだ。

 めでたく第2志望に合格し息子は寮生となった。室井氏は寂しくてたまらない。ひとりで酒を飲んで「あたしのすべて」だった息子の写真を眺める日々を過ごすが、だんだんと「離れて暮らすことで、親子としてではなく人間としての信頼関係が築けている」と実感していく。

 現在、高校生となり大人になりつつある息子。室井氏は「あたしはただただ息子が眩しい」と結んでいる。「受験」を通して、様々な感情を味わいながら母子で格闘し、いつしか親離れ、子離れしていく母と息子の気持ちが、真っすぐに伝わってくる1冊だ。

文=泉ゆり子