“祖母の手作り弁当をトイレに捨てる”衝撃シーンが話題騒然! “家族との距離感” を描き大反響を集めた、WEBマンガ『良い祖母と孫の話』

マンガ

更新日:2016/10/3


『良い祖母と孫の話』(加藤片/小学館クリエイティブ)

 2016年7月に厚生労働省が発表した「国民生活基礎調査の概要」によると、核家族や独り身世帯は増加傾向にあるという。 祖父母と両親、子どもたちで暮らす、いわゆるサザエさんのような家庭は減っているのだ。そこで懸念されるのが、家族との関係性の変化ではないだろうか。本来ならば距離が近いはずの家族と、うまくコミュニケーションがとれない。“毒親”という言葉がブームになったように、家族間での距離は、現代における大きな課題のひとつだ。

 そんな問題をテーマにし、WEB公開時に大反響を集めたマンガがある。それが、9月10日(土)に発売される『良い祖母と孫の話』(加藤片/小学館クリエイティブ)だ。本作は会社員の傍らマンガを書き続けていた加藤さん、初の単行本。「電脳マヴォ」での連載時、「最後まで読んで号泣した」と話題を集めていた作品だ。

 物語の本筋となるのは、父子家庭で育った高校生・しょう子と祖母との関係性。しかし、タイトルから想像されるものとは裏腹に、衝撃的なシーンが相次ぐ。その最たるものが、冒頭で“祖母の手作り弁当をトイレに捨てるシーン”じゃないだろうか。しょう子は、購買で売られている紙パックのジュースやパンのように、“パッケージに包まれた食べ物”に安心感を覚え、祖母が一生懸命作ってくれたお弁当には手をつけない。しかし、「作らなくて良いよ」という一言を口に出せず、毎日のように捨てては、「おいしかったよ」と偽りの感想を述べているのだ。

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 これは、しょう子なりのやさしさである。祖母を傷つけたくないあまり、嘘をついているだけなのだ。ところが、ひょんなことからその嘘がバレてしまうことに。そして、すべてを察した祖母は、弁当作りをやめ、お昼ごはんとしてパンを渡すようになる。どうして祖母はなにも言わないのだろう。どうして祖母は愚痴のひとつも言えないのだろう。しょう子のなかに、そんなモヤモヤした感情が芽生えていく。

 やがて、「自分の存在意義」を見失ってしまった祖母は、認知症を発症してしまう。それを機に、しょう子は他者との関わり方について、あらためて考えるようになるのだが……。

 周囲の顔色を窺いすぎるあまり、本心をさらけ出すことができなくなる。これは、多かれ少なかれ、現代人の誰もが抱える心の闇ではないだろうか。では、家族という最小のコミュニティのなかで、そのような息苦しい状況に追い込まれてしまったら? そう考えると、しょう子の行動を非難する気持ちも失せてしまう。だって、しょう子もまた、苦しんでいるのだから。

 物語全体を通して非常に鬱蒼としたムードが漂うが、ラストシーンはとても爽やかな読み心地だ。車いすに乗った祖母を押しながら、土手を歩くしょう子。認知症の影響で、どうしても会話はちぐはぐになってしまうが、しょう子にそれを疎ましがる様子はない。そして、最後に祖母がしょう子にかけた言葉、この一文を読んだ時、きっと誰もが涙するだろう。

 近すぎるからこそ難しい、家族との関係性。それを真正面から描き切ったこの物語を、ぜひ一読してもらいたい。

文=五十嵐 大