おばあちゃんがお手紙の返信をくれないのはどうして? 家族の温かさを思い出させてくれる感動の長編小説

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13


『お手がみください』(髙森 美由紀/産業編集センター)

 おばあちゃんと孫の心温まる交流のお話。正確には、ひいおばあちゃん(曾祖母)とひ孫のお話なのだが、こういう感動系の話では泣けないと思っていた。なぜなら、私はおばあちゃん子でもないし、更に言うなら一年に一回会うか否かの疎遠な関係だからだ。だから「感情移入もできないだろうし、泣けないよね」と思いつつ読んだけど、見事に予想は裏切られ、ラスト、涙なくしては読めなかった。

お手がみください』(髙森 美由紀/産業編集センター)は、眞子(まこ)という8歳の女の子と、86歳の曾祖母との交流を描いた、ユーモラスでクスリと笑えるのに、最後は涙なくして読めない感動長編小説だ。

 物語は大人になった眞子が、履歴書を書いているところから始まる。

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田中眞子
 あたしの字はこんな感じだったっけ。

なんて捉えどころのない字だろう。主張も気力も何もない。私はこれと正反対の字を知っている。濃く太く、生命力があり、一文字一文字に訴えるものがあった。
おばあちゃんは――。

 長年勤めていた会社が潰れ、失業中の眞子は、特技も資格もなく、これといった職歴もない独身のアラサー女。将来に不安を感じていた。そんな時、実家の両親から連絡が来る。自宅のリフォームをするから、家の片付けを手伝ってほしいと。
無職であることを言い出せず実家に戻り、20年以上前に亡くなった曾祖母の部屋を片付けていると、子どもの頃、自分が曾祖母に書き続けていた千代紙のお手紙をタンスの中から見つける。

 地方に住む小学生の眞子。両親は共働きで仕事が忙しく、眞子はいつも曾祖母のかずと遊んでいた。かずは優しくも、どこか子供っぽいところがある楽しいおばあちゃん。二人の関係は「親友」であり、お母さんに怒られるようなことをして、バレないように二人でごまかす時は「悪友」でもあった。
 大好きなおばあちゃん。だけど、眞子には一つ不満があった。
 おばあちゃんが、自分のお手紙に返事を書いてくれないこと。
 曾祖母はどうしてお手紙の返事をくれなかったのか? その謎が明らかになる時、幼い眞子が少しだけ、大人になる。

 本作は子供の頃のことをよく思い出させてくれる。ちょっとしたことで喜びを感じたり、思い通りにいかなくてモヤモヤしたり、自分の感情をうまく伝えられなかったり……決してキレイなだけではない、子供の時のリアルな感情を思い起こさせてくれる。
 そして家族がいること、「帰る場所」があることの尊さを教えてくれる。笑顔と涙の一冊だった。
 9月12日に発売予定だそうだ。終盤、明らかになるおばあちゃんの手紙に何が書いてあったのか、知りたくはないだろうか?

文=雨野裾