輝く琥珀色に誘われ、今日も一杯! 世界最優秀ショップから学ぶウイスキーの世界

食・料理

公開日:2016/9/12


『ウイスキー案内』(栗林幸吉:監修/洋泉社)

 読者諸氏の中で、ウイスキーを愛飲している方はどれくらいおられるだろうか。2014年のNHK連続テレビ小説『マッサン』を見てウイスキーに惹かれた方もいるだろう。小生がウイスキーの魅力にハマったのはここ10年くらいだろうか。とはいっても自身で買うのは1000円前後の品が主で、3000円の品を贈られたときは、それこそ大切にチビチビと飲んだものだ。そんな貧乏性の小生が、そのカバー写真のヴィンテージ感あふれるボトルに惹かれ手に取ったのが、今回紹介する『ウイスキー案内』(栗林幸吉:監修/洋泉社)だ。

 本書の内容としては、ウイスキーの歴史や製法などが紹介されていて基本的知識をしっかり学べる。だが、圧巻は第2章「垂涎のウイスキーコレクション」だ。この章ではウイスキー通も垂涎の品ばかりが100頁にもわたり並ぶ。冒頭からして、1930年代の「禁酒法」時代に売られていたバーボン(アメリカンウイスキー)「オールドグランダッド」なのも印象的だ。「禁酒法時代になぜ?」と思うだろうが、どうやら「薬用」との名目で売られていたらしい。

 他にもこうした貴重な品々が数多く紹介されているが、それもそのはず、監修の栗林幸吉氏は目白の酒販店「目白 田中屋」の店長である。そこは日本一のウイスキー店と呼ばれるほどの名店で、他店では扱っていない貴重な逸品を求めて都内は勿論、日本全国からも客が集まるのだ。その名声は国内にとどまらず、2007年にはイギリスの雑誌『ウイスキーマガジン』で小売店賞第2位を獲得。さらに2010年には世界的コンペティションの「ワールドウイスキーアワード」で単一小売店部門世界最優秀小売店を受賞している。

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 栗林氏自身も前書きで「かなり偏っている。シングルモルトが多いし、今では売ってない古いボトルばかり。わがままな酒屋が、出版の自由を傘に出自した嗜好品としてお許しいただきたい」と述べている。だが、このわがままに選んだ逸品たちこそが、本書の魅力だろう。実はこの章の名品たちを小生はほとんど知らない。知っているブランドでさえも、そこにあるのは現行品ではなく、そのボトル自身に歴史があるヴィンテージ品たちだ。これを機会に小生も、もっとさまざまなブランドを知っておきたいと思う。

 ちなみに「シングルモルト」とは、大麦麦芽のみを原料としたウイスキーで、1つの蒸留所のみで作られた1種類の原酒を瓶に詰めたものである。一般的に市販されているのは、その「モルトウイスキー」と大麦麦芽以外で造られた「グレーンウイスキー」をブレンドした「ブレンデッドウイスキー」が主である。簡単にいえば「シングルモルト」は高級品なのだ。

 ならば「ブレンデッド」は安物かと問われると必ずしもそうではない。安い品は単に熟成年数が比較的短いものと考えていいだろう。ワイン同様、原酒の熟成年数はその味を決める大切な要素だ。中には「モルト」と「グレーン」以外に、醸造アルコールを添加したものもあるが、それですら仕上げのブレンドにはやはり熟練ブレンダーによる職人技が必要である。「ブレンデッド」は、そのブレンドによる相乗効果を味わうものなのだ。つまり、熟成年数を重ねた原酒同士を組み合わせた高級な「ブレンデッド」と、同じく熟成年数を重ねた「シングルモルト」とは考えかたが違うだけで、単純な優劣などはつけられない。

 と、なると今度は何故に栗林氏が「シングルモルト」を中心にセレクトしたかとの疑問も湧くだろう。氏としては原酒の個性がストレートに出るからこそ「シングルモルト」を基準にして考えているそうだ。なるほど、そもそもウイスキーは高いアルコール度数もさることながら、日本酒やビールと比べて個性が強い味わいだ。それなら、まずは基準となるクセを味わっておくのも手ではある。いつも「ブレンデッド」ばかりの小生だが、たまには奮発して「シングルモルト」にも挑戦してみたい。まずは財布と相談か。

文=犬山しんのすけ