第19回「身の毛もよだつ『ヤリマン2万7千円事件』」/森田哲矢(さらば青春の光)連載

公開日:2016/9/15

日本の大躍進に沸いたリオオリンピック。

卓球男子の歴史的なメダル獲得、絶対王者である筈の吉田沙保里選手のまさかの敗戦、バドミントン、テニス、400メートルリレー。

数々の感動的なシーンが生まれた中、我々ゴシッパー達を一番沸かせた猫ひろしパイセンのツイッターでの「選手村にコンドームが置いてある」発言。

非常に良い夏になりました。

とはいえ、まだまだ残暑が厳しい日本列島。
寝苦しい夜を過ごしてる方もおられるのではないでしょうか?

ということで皆様に涼んでいただく為に今年も怪談ゴシップをご用意致しました。

しかも昨年のような『本当にあったっぽい怖いゴシップ』ではなく、僕自身の身に実際に起こった身の毛もよだつ『本当にあった怖いヤリマンゴシップ』です。

僕自身こんな恐怖体験は2度としたくない。
それぐらい怖かったです。

それは梅雨の気配がしてきた5月の下旬頃のこと。

僕、他事務所の後輩のニューヨークというコンビの屋敷、フリーディレクターの財津、の悪友3人で、屋敷が仕込んでくれたコンパに行きました。

待ち合わせ時間よりも少し早めに着き、どういう戦略でいくかをなんとなく話し合っていると、女の子3人も居酒屋に到着。

容姿を見ると底辺の男達のコンパの相手にしては綺麗すぎる3人。ノリも良さそう。
胸高鳴る僕達。3人で目を合わせながら心の中でハイタッチをする。
心躍らす僕たちにさらに朗報が入る。

“都内の大学に通う女子大生3人組”

世の男達が一番好きな四字熟語

『女子大生』

僕たちはまた目を合わせながら心の中で拳を天高く突き上げる。
全くと言っていいほど酒が飲めない僕も今日ばかりはと“梅酒水割り水多め”を頼む。

「ほぼ水やないか!」

という屋敷のツッコミ。
一同爆笑。
楽しい、楽しすぎる。

1時間ぐらいが経ち、いよいよ今日のこの後の行方を大きく左右するであろう下ネタトークのブロックに入ろうとしたその時、女の子の一人が言った言葉に僕たちは耳を疑った。

「ねえねえ、一番最近いつセックスした?」

え?え?え?嘘?マジで?
そんな筈ないよな?オレらの聞きまちがいやんな?
と思ってるところに別の女の子が全盛期の闘莉王ばりに2列目から飛び込んできた。

「あたし1ヶ月ぐらい前!」

持ってるグラスを落としそうになるのを必死にこらえる僕たち。
追い打ちをかけるように3人目の女の子がルーズボールに飛び込んでくる。

「え?じゃああんた今月処女じゃん! あたし4日前!」

ゴーーーーーーーーール!!!!!!!!!

僕たちは唖然とした。
右サイドの女から上がったセンタリングをセンターの女がヘディングシュート、そのこぼれ球を左サイドを駆け上がっていた女がゴールに叩き込み鮮やかにゴールネットを揺らした。

ヤリマン確定。

こんなことが起こり得るのか?
僕たちは目の前で起こった状況をまだイマイチ理解できないでいた。
なぜなら近代コンパにおいて、こういう会話は決まって男からするのが定説だからだ。
会話の中に下ネタを少しずつ織り交ぜながらエロい女かどうかを見極めていく。
しかしその定説をいとも簡単に覆す女子チームが現れるとは。
しかも全員がまだ大学生。末恐ろしいにも程がある。

FCヤリマンの華麗なるパス回しに見事に翻弄された僕たちは、少しずつ現実を受け入れると同時に経験したことのないぐらいの嬉しさが込み上げてきた。
男全員の頭の中のビッグビジョンにでかでかと映る『ヤリマン確定』の文字。
気がつくと僕たちは再び目を合わせ全員で心の中でカズダンスを踊っていた。

そう、僕たちがコンパで最も知りたい情報は、その子達がヤリマンかどうかなのだ。

ヤリマンが確定した白木屋の個室のボルテージは最高潮に達し、僕たちはすぐにボールをセンターサークルにセットし、再びキックオフ。

「自分らFCヤルセロナやなぁ!」

と上機嫌で言う僕。

「いや別にうまないわ!」

とつっこむ屋敷。

一同爆笑。
楽しい!!楽しすぎる!!
このままいけば3人共絶対ええ思いできるやん!!
勝ち点3をほぼ手中におさめた僕たちは、2次会に行こうと誘い、6人で財津の家で飲み直すことになった。

日本男子全員の憧れ

『宅飲み』

中学男子ならその単語を聞いただけでギンギンに勃起するであろう超卑猥な言葉

『宅飲み』

僕らはその宅飲みに、いとも簡単に持ち込めた。そりゃそうだ、だって相手はヤリマンなんだもの。
しかし、事態は意外にも急展開を迎える。
全員ほろ酔いで、エロいトークもさらに加速しながら楽しく飲んでいると、女の子の一人が、次の日が朝イチから授業だから、と急に帰ると言いだした。
なんでや!?もう少しでいけるんちゃうんか!?そもそもヤリマンが何もせず帰るのはルール違反やろ!?
もはやよく分からない思考回路になりながらも必死に食い下がる僕たち。
しかし僕たちの願いもむなしくその子は帰っていった。
最後にLINEグループは作ったものの、場の空気は一気に冷め、その子狙いだった財津も急に目標を見失い

「オレも寝るからみんなも帰ってくれ」

と言ってくる始末。

渋々財津の家を後にし、僕もタクシーで帰ろうとすると、そこに不屈の漢、屋敷が立ち上がります。

「じゃあとりあえず森田さんの家みんなで行きます?」

さすがは吉本興業という大きな事務所に所属し、渋谷無限大ホールという猛者揃いの劇場で揉まれてる芸人はちょっとやそっとのアクシデントでは動じない。そして何があろうとけして諦めない。
そんな屋敷の男気にやられたのか、女の子二人は意外にもオッケー。
そうか! こいつらがFCヤルセロナのツートップか! ありさとみゆき、こいつらがメッシとネイマールやったんか!
さっき帰ったあの子はただの人数あわせ。本当のファンタジスタはこの二人なんや!
敗戦濃厚と思われた試合。しかしロスタイムはまさかの120分。まさにそんな気分。
そして4人でタクシーに乗り込み五反田の僕の家へと向かう。
再び光が見えだし、車中の会話も弾む。

「運転手さん、僕この後この子達とセックスするんすよー!ギャハハハハ!」

世界一おもんない絡み。
けど楽しい。楽しすぎる。
ホームにFCヤルセロナを迎えての最終節。
奇跡が起きる予感しかしない。

コンビニで酒を買い込み、3次会スタート。
スタート直後から飲めや歌えやの大騒ぎ。
僕も普段絶対に飲まない氷結やストロング0を無理矢理胃に流し込む。
なぜならこの後確実にセックスが待っているから。
セックスが確定してるのならば、ウォッカだろうがテキーラだろうがなんでもござれの精神。

しかし調子に乗って飲んでいる最中、最も恐れていたものが押し寄せてきた。

眠い。眠すぎる。

ただでさえ飲めない酒をいつもの何倍も飲み、かつてないほどの大ヤリマンを相手にしてたせいか、知らず知らずのうちに疲れはピークに達していた。それに加え頭痛もしてきた。徐々に意識が遠のいていく。

目が覚めた時にはすでに昼になっていた。
ふと見るといびきをかいて寝てる屋敷の姿しかなく、女の子二人の姿はどこにもない。
すぐに屋敷を起こして聞いてみたが、

「僕も途中で寝ちゃいました」

と力なく答えるだけ。
不甲斐ない敗戦。

しかし、勝てた試合を落とした悔しさはあるものの、楽しかった昨晩のあれこれを振り返ると、どこか清々しいと思う自分もいた。
恐らくその余裕は昨日作ったLINEグループが、しっかりと残っているという事実があるからだろう。
連絡先は知っている。また飲めばいい。
限りなく勝ちに等しい敗戦。
ニヤけながらふとリビングのテーブルを見ると、ありさが付けていた時計が置かれている。床には下着の上から着るキャミソール的な薄手の生地の服が落ちている。

ヤリマンと言えど彼女たちも中身は普通の大学生。そりゃ当然忘れ物ぐらいするだろう。
そう思いながら僕はその時計を腕にはめ、キャミソール的な服を着て、屋敷に写真を撮らせ、その写真を昨夜作ったLINEグループにすぐに載せた。

『忘れてるよー!( ^ω^ )』

そう、次へのスタートはすでに始まっているのだ。

この人達楽しい! と思わせることで次回飲んだ時の女の子のガードをぐいっと下げる作業を怠ってはならない。
負けはしたが、これが次につながる負け方なのだ。
「ギャハハハ!これ絶対女の子引くわー!」と言いながらパシャパシャ写真を撮る屋敷。
「ん? こんなに忘れ物していくってことは、もしかしてまたこの家に来たいっていうメッセージなんかな?」
と屋敷に聞く僕。
「ヤリマンがそんな回りくどいことするわけないやろ!ヤリマンやぞ!」
とつっこむ屋敷。
一同爆笑。
楽しい。まだ楽しい。

そんなやり取りをしてるうちにお腹が減ってきた僕たちは昼ご飯を食べに行くことにした。
しかもどうせならと一般の人にも開放してる近所の大学の学食に行くことにした。
大学内を歩く女子大生達を眺めながら、昨日の女の子のエロかったポイントをお互い言い合い、過去最高に楽しかったコンパを反芻する僕たち。

昼間から楽しー!
一生こんな毎日がええなー!
と、心の底から思う僕たち。

そして、学食の券売機の前で事件は起こった。

僕が食券を買おうと思い財布を開けると、お金が1円も入ってないのだ。
僕は一瞬頭が真っ白になり、目の前の状況を飲み込むことができなかった。

なんで?? え?? なんで??

いや、昨日までお金入ってたやん?

タクシー下りる時金払ったやん?

その時点でまだ2万7千円ぐらい財布の中に入ってたやん?

なんで? なんでそれが全部なくなってんの?

放心状態の僕の隣で、心配してる感じを出しながらも基本的にはずっと爆笑してる屋敷。
一旦冷静になる為に僕と屋敷は大学の外にある喫煙所でタバコを吸うことに。
恐らくこの大学の中で一番苦学生のような顔をしてるであろう僕。
色々な可能性を頭の中で模索する。
何度も何度も模索するが、何度考えても同じ結論に至る。

あいつらしかおらんやんけ!!!!

絶対そうやん!!
どう考えてもあのヤリマンが盗んだ以外考えられへん!!
マグマのように込み上げてくる怒り。

何が一番腹立つかというと、前にもこのコラムで書いたが、僕が常々唱えている“ヤリマン良い奴説”を崩壊させたことに何よりも憤りを感じる。

こんな裏切られ方は初めてだ。

ごく一部のこういうヤリマンのせいで全国各地で頑張っているヤリマン達のイメージを下げていることにあいつらは気づいていない。
僕がやり場のない怒りを爆発させていると、一人の冴えない男子大学生が僕たちに声をかけてきた。

「さらば青春の光の森田さんとニューヨークの屋敷さんですよね? 僕お笑いめちゃくちゃ好きで、森田さんの大ファンなんです! 握手してください! てゆうかこんな所で何してるんですか!?」

僕と屋敷はその大学生に握手をしてあげた。
聞けば彼はこの大学の4年生で、名前は岸くんというらしい。岸くんはパッと見た感じ少しオタクのような雰囲気を醸し出しているが、僕らに会ったことを凄く喜んでくれている。
僕はこのやり場のない怒りをなんとかしたくて、まだ出会って1分も経ってない岸くんに、

「おい、岸くん聞いてくれ。実は昨日ヤリマンと飲んでてんけど……」

と、昨日からここまでの経緯を全て話した。
岸くんは驚愕しながらも、
「ちょっと待ってください! そもそもそんな簡単にヤリマンっているんですか!?」
と凄く素朴な疑問をぶつけてきた。
はっきりいって今そんなことはどうでもいいが、確かに普通に勉学に励んでいる大学生ならそう聞いてくるのも無理はない。
しかし、そこじゃないよ岸。僕は今お金を盗まれたことに腹を立てているんだよ。なんとしてでも犯人をとっ捕まえて懲らしめたいんだよ、という旨を伝えると、岸の口から驚愕の事実が飛び出した。

「僕今大学で犯罪心理学を専攻してるんです」

マジか!? こんな偶然ある!?
ヤリマンにお金盗まれて途方に暮れてるところにたまたま顔指した大学生が犯罪心理学を専攻してる!?

気がつけば僕は「岸ーーー!!!」と言いながら岸に抱きついていた。
思わぬヒーローの出現により急遽捜査本部が立ち上がった。
岸にこの後の予定を聞いたら、夜のピザ屋のバイトまでは空いているとのこと。
すぐさま岸をパーティに入れ、僕、屋敷、岸の3人によるヤリマンを倒す為の大冒険、ヤリマンクエストがスタートした。
スタートはしたものの、お腹が減っている僕たちはとりあえず学食に戻り、当然のごとく屋敷に昼ご飯を奢らせ作戦会議をした。

とりあえずまだ事件が発覚する前のLINEグループのやり取りはこんな感じだ。

森田『時計忘れてるよー!』

時計をはめた写真

屋敷『早よせな売るって言ってるぞー』

ありさ『やめてー(≧∇≦)』

森田『服も忘れてるよー!』

服を着た写真

屋敷『早よせな使うって言ってるぞー』

みゆき『もう使ってるじゃん!笑(´Д` )』

今となっては悲しさすらあるものすごく平和なやり取り。みゆきのツッコミも的確。
そんな平和なやり取りのさなか、突如として僕が切り込む。

森田『財布の金が全部なくなってる!!』

そして、まだあまり犯人を刺激しないぐらいの、尚且つお前らが盗んだことは薄々分かってるんだよぐらいの文章を屋敷が打つ。

『誰かに盗まれてる!!笑』

これで一旦相手の出方を伺う。
どう出てこようが2万7千円が返ってくるまでは地獄の果てまで追いかけてやる。
すると、さっきまでテンポ良く入ってきてたみゆきとありさが急に入ってこなくなった。既読はついている。
この時点でだいぶ怪しい。
そして1時間ぐらいして新着メッセージが。

財津『オレの家の電気のリモコンもなくなってる!』

本当にどうでもいい全く別の事件発生……
財津には申し訳ないが、2万7千円盗まれた僕からすれば、財津の家のリモコンがなくなったとか本当にどうでもいい……
ほんでたぶん探せば絶対にどこかにあるし。
財津のしょうもない事件にげんなりしていると、一番最初に帰った女、ゆずから新着メッセージ。

ゆず『すいません、リモコンわたしが食べました笑』

財津『ゆずちゃんかい!食べたんかい!笑』

ゆず『許して大好き♡』

財津『しゃあないなぁ、可愛いから許す♡』

ゆず アザラシみたいな動物が投げキッスしてるみたいなスタンプ

……本当にしんどい。こいつらはこっちの事の重大さを全く理解していない。
しかし、そこにありさとみゆきが急に入ってきた。

ありさ『そのスタンプ可愛い( ^ω^ )』

みゆき『ほしー♪( ´▽`)』

お金が盗まれたことには全く触れない。
すぐさま屋敷と僕が引き戻す。

森田『てゆうかよう考えたら起きた時財布が変なとこにあった』

屋敷『森田さんがへこみまくってる!』

屋敷がご飯の後に奢ってくれたソフトクリームをへこみながら食べる僕と岸の写真を送信

このやり取りになると、またも急に入ってこなくなる二人。
もうこの時点でほぼ確定ではあるが、バックれらても怖いので、あまり深追いせずこっちも何か動きがあるまではじっと待つことにした。
ここからは持久戦だ。ここは我慢して待ちの姿勢を貫くことで必ず勝機が見えてくるに違いない。
喫茶店でコーヒーでも飲みながら待つことにしようと思ったその時、犯罪心理学専攻の岸がおもむろに口を開いた。

「とりあえず事件現場見たいんで森田さんの家行きませんか?」

存在感を示したくなったのか、急に犯罪心理学者風を吹かし、それっぽいことを言ってくる岸。
僕らは答える。

「まあとりあえず家戻ってもあれやし喫茶店でゆっくりしようや」

しかし岸は言う。

「事件現場見ないことには犯罪者の心理って見えてこないんでとりあえず森田さん家行きましょう!」

「まあ飯食ったばっかやしちょっとゆっくりコーヒーでも飲もうや」

「ゆっくりするのは森田さん家でも出来るじゃないですか。森田さん家を拠点にする方が絶対合理的ですって」

え? 全然譲らんやん?
あれ?
こいつもしかしておれん家来たいだけちゃん?
薄々感じてたけど、こいつお笑い好きのミーハー大学生ゆえに、別に大して売れてないオレらのことでも完全に芸能人やと思ってるやん。むしろ最初会った時、スターに会ったぐらいの感覚で接してきてたもん。
こいつ芸能人の家見たいだけやん。
そう思いながらも、岸の熱意に負けた僕たちは喫茶店を諦め、僕の家へと向かった。
家に向かう道中もガンガン犯罪心理学者風を吹かしてくる岸。

「今までの話を聞いた結果、犯罪心理学の観点から見ると、この犯人、………かなり大胆ですね」

そんなことはとっくに分かっている。
むしろそれは事件の概要聞いた時のただの感想やから。
なぜそんな当たり前のことをちょっと溜めて言ってくるのか?

「恐らくこの犯人、7、8回目の犯行ですね。」

なんで? それはどこから出てきた数字なん?

「屋敷さんが犯人っていう可能性もゼロではないですよ。もっと言えば財津の可能性もなくはないです。」

あっ、こいつポンコツやった。
さっき学食でソフトクリームを奢ってくれた屋敷のこと疑ってるやん。
しかもどう考えてもありえへん財津のことまで。

「岸畑任三郎の推理によれば……」

もう完全にオレらに慣れたやん。
芸人相手に余裕でボケてくるやん。
平凡な日常に急に訪れた非日常を全力で楽しんでるやん。
ほんで聞いたらこいつすでに不動産屋に就職決まってるらしい。犯罪心理学全く関係ないやん。

「もう今日バイト休もっかなー」

帰ってほしい。今からでもバイトに向かってほしい。
家に到着し、芸能人の部屋を舐め回すように見る岸。
ベランダの窓を開け、

「隣の建物から身体能力の高い人間ならこのベランダに飛び移れますよね」

湯水の如く溢れ出す岸畑のポンコツ推理。

「お前ほんまええ加減にせえよ! ちょっと黙っとけ!」

怒る屋敷。

「あれ? なんで屋敷さんそんなに怒ってるんですか? 怪しいな」

「殺すぞ!!」

岸畑の独壇場。
三谷幸喜が見たら間違いなく怒ってくるであろうゴミのようなやりとり。
さすがの僕も、可愛い後輩がただのポンコツ大学生に手玉に取られてる様を見てられなくなり、岸を切り離す決断をした。

「岸、お前もう帰ってええで。あとはオレらでなんとかするわ。ありがとうな」

現実に引き戻されそうになるのを必死にもがく岸畑。

「ちょっと待ってください! 僕も一緒にヤリマン退治させてください! 僕同世代としてそいつら許せないんですよ! 同世代にこんな奴らがいると思うと本当に腹が立ちます! だからお願いします! もうちょっとだけここに居させてください!」

1ミリたりとも共感できない正義感をふりかざしてくる。
一瞬で岸畑キャラを捨て、もはやただの岸で懇願してくる。
あまりの懇願具合にまたも1つの疑問が浮かぶ。
あれ? こいつ女の顔見たいだけちゃん?
だって女のLINEのアイコン見せたあたりからこいつのテンションのギア2段階ぐらい上がったもん。絶対そうやん。

誰よりもこの状況を楽しんでる男、岸。

それもそのはず、よくよく考えたら自分は金も盗られてない、むしろご飯もご馳走してくれる、その上好きな芸人と一緒にいれる、ぶっちゃけ金が返ってこようがこまいがどっちでもいい。

唯一ノンリスクの男、岸。

知らんうちにお笑い好きの同級生にオレらと一緒におることをLINEで自慢してる男、岸。

家に置いてある単独ライブのDVDをやたらと欲しがる男、岸。

ゆとり世代が生んだモンスター、岸。

まあこのまま無理矢理返したら後で何言われるか分からんし、とりあえずほっとくか。
ここにいることを許された岸は、安堵の表情を浮かべると共にまた変なスイッチが入った。

「僕そいつらに会ったらめちゃくちゃ説教してやりますわ。同世代として。僕お二人より怒鳴り散らしちゃうかもしれませんが、その時は止めてくださいね。僕小学校3年から6年までボクシングしてたんで」

無視。ただただ無視。

そうこうしていると、ありさからLINEが入ってきた。

ありさ『あの時計大事なやつなんで返してほしいんですが、森田さん今日渋谷に持って来れたりしますか?』

は? 何言うてんのこいつ?
お金盗まれたことには一切触れてこないくせに、自分の時計は返してほしいやと?
まずオレの金返せやボケ!!

いよいよ怒りが大爆発しそうになった僕は、とうとう本格的にこいつらを追い込むことにした。

森田『ごめん、今警察来て事情聴取してるから五反田来られへん?』

屋敷『オレも警察で指紋取られた!』

森田『二人も五反田来られへん? 申し訳ないねんけど警察で指紋取ってほしいねん。そのタイミングで時計は渡せるし』

屋敷『今から森田さんの家で現場検証するかもやわ! 大事なってきてめっちゃややこしいわ!』

リアリティを出す為に少し時間を空けながらもどんどんスマッシュを打ち込んでいく。
オリンピックで金メダルを取れるぐらい息の合ったコンビ“もりやしペア”

その間、二人からは何の返信もない。
そして、とうとう屋敷がラインぎりぎりいっぱいのところにとどめのスマッシュを打ちこんだ。

屋敷『今から現場検証するねんけど、現場検証ってなったら事件扱いになってまうらしいねん。ほんまに盗ってない? 盗ってたら今のうちに正直に言ってほしい』

これでダメならもう打つ手はない。
固唾を呑んで返信を待つもりやしペアとポンコツコーチ岸。

なかなか返信が来ない。
釣り堀で竿をたらし魚が針にかかるまでじっと待つじじいのような3人。

すると、

ありさ『すいません……わたしかもしれません……』

かもしれません?
静かな水面に浮かぶ浮きが少しだけ沈んだ。

ありさ『今バッグの中を整理してたら、明らかに自分が持ってるはずのない額のお金が出てきました』

おっ!? ということは!?

ありさ『わたし酔っ払っててほとんど記憶がなくて……本当にすいません。今から森田さんの家まで持っていきます』

浮きがぐいっと沈んだ!!!

泥棒確定!!!!!

よっしゃーーーー!!! という雄叫びと共に、僕たち3人は数時間ぶりに、本日2度目の握手を交わした。

「わたしかもしれません」や「酔っ払ってて記憶がない」などの嘘丸出しの言いわけこそムカつくが、これでようやくお金が返ってくる。
ほっと胸を撫で下ろしたが、それでもまだ油断は禁物。
逃げられない為にもなるべく優しく返信する。

森田『返しに来てくれたらそれでいいから18時とかにオレの家来れる?』

ありさ『わかりました』

聞けばみゆきはありさの犯行を全く知らず、全てありさの単独犯だという。
18時にみゆきとありさ二人で一緒にお金を返しに来るとのこと。

ようやく一安心。
後は最後の閉会式をどう盛り上げるか。
お金を盗まれたとはいえ、一般の女子大生相手に面と向かってぶち切れるのもかわいそうだ。ならば最後は芸人として一応面白い感じで終わるほうがいいのではないか。
そう思い、僕は超新塾というお笑いユニットに所属しているゴリゴリの黒人、アイクを呼んだ。
ヤリマン二人が家にお金を持ってきた時に、ゴリゴリの黒人が無言でベッドに座ってたら面白いだろうと考えてアイクに家に来てもらった。

するとまたあの男に変なスイッチが入った。

「じゃあ最後の最後、ありさの時計を返す時、僕の胸ポケットから時計を出すというオチにしません? あとはお二人が、何でお前が持ってんねん的なツッコミ入れてもらえればいいんで」

あかん、また帰ってほしくなってきた。
まずこいつをアイクにしばいてもらおかな?
しかし僕ら二人も特に良い案が浮かばず仕方なく岸の案を採用することに。

そしていよいよ18時になり、ありさとみゆきが到着。各々が定位置につき、僕が玄関のドアを開ける。
そこには一応反省した顔をするヤリマン2人。12時間前のテンションとは雲泥の差。
案の定部屋に入るなり困惑の表情。
無言でベッドに座る黒人と、ライングループの写真でソフトクリームを食べてた冴えない学生がここにいる謎。

黒人AV男優と汁男優。

2人の緊張感は更に加速し、みるみる表情が強ばっていく。
しかし、緊張していたのはヤリマンだけではなかった。
屋敷もヤリマンが来た途端、急に勢いがなくなり口数も少なくなった。
というのも、昨日までめちゃくちゃ楽しく飲んでた女がガチの泥棒、ガチの犯罪者だったという事実に急に怖くなったらしい。
そして、あんなに鼻息の荒かった岸が電池が切れたかのように一言も喋らない。

おい! 岸! どうした!?

喋れ! 動け! 女来る前にあほみたいにシュッシュ言いながらやってたシャドーボクシングとかやれ!

全く使えないポンコツコンビと、急に先輩に呼ばれ何も分からずベッドに座らされる黒人。そしてただの被害者のオッサン。

今考えるとレベル1のクソパーティ。
こんな奴らが閉会式を盛り上げれるはずもなく、僕も一応それなりに頑張ってボケてはみるものの全て空振り。
そもそもガチの犯罪者がいる空間で何をやろうが面白いわけがない。
ずっと変な空気のまま、ようやく2万7千円を返してもらい、最後に岸が胸ポケットから時計を出し、僕と屋敷がつっこむが当然のようにすべり最悪の閉会式が閉幕。

この上ない消化不良感が漂う中、帰り際にヤリマン2人が言い放った、

「本当にすいませんでした!また良かったら一緒に飲んでください!」

という台詞が一番面白かった。
僕たちは全力の「なんでやねん!」を返し、ヤリマン2人を見送った。

敗北感にまみれながらも全く喋らなかった岸を詰める僕。
すると岸の口から驚愕の一言が飛び出した。

「違うんです。あのー…言いにくいんですが……みゆきちゃんめちゃくちゃ可愛いですね」

え?は?

「森田さんお金盗まれたかもしれませんが、僕ハート盗まれちゃいました!」

なんじゃこいつ!!
こいつ最後の最後まで岸やんけ!!

「みゆきちゃん達との合コンセッティングしてください!お願いします!!」

岸は僕たちと別れる寸前までこの言葉を連呼していました。
そう考えると、これはヤリマンクエストではなく、岸クエストだったような気もしてくる。

そしてこのコラムのタイトルも、

「身の毛もよだつ『ヤリマン2万7千円事件』」

などではなく、

「本当にいた恐るべき男、岸」

だったような気がします。

ちなみに後日みゆきから、ありさは窃盗の常習犯で、調子の良い時は酔っ払ってる男とキスしながらポケットから財布を抜いたりすると聞き、本当に恐怖で震えました。
同時に岸の「この犯人は7、8回目の犯行」という推理があながち間違ってなかったことにイラっとしました。

あと財津の家の電気のリモコンは、なぜか屋敷のカバンから出てきたらしいです。
これで全ての事件が解決しました。