都会のストレスが男女を狂わせる! 不倫は巡る? 芸能ネタから下ネタまで、だから人の不幸は面白い!

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公開日:2016/9/19


『朝からスキャンダル』(酒井順子/講談社)

 酒井順子と言えば、数々の雑誌コラムや著書で女性の心理を気持ちよくえぐり、多くの信者がいると言われている人気エッセイストだ。『負け犬の遠吠え』など大ヒットした著書も多く、30~40代を中心に多くの女性に愛読されてきた。その酒井氏がサラリーマン向け週刊誌に11年前から、600本におよぶエッセイを毎号連載していることをご存じだろうか? その週刊誌とは、女優のヌードやマスコミ批判、芸能ネタ、政治こき下ろし、最近では老人セックス特集など、毎回スキャンダラスな記事で有名な『週刊現代』だ。この週刊誌にレギュラーとして、長く愛読され続けている人気エッセイをまとめたのが、『朝からスキャンダル』(酒井順子/講談社)である。

 最近では中高年も増えたという男性読者を意識した女子目線のエッセイなのだが、酒井氏の視点はバラエティに富んでいる。芸能ネタでは、SMAP、ベッキー、乙武クン、紀香&愛之助、石田純一ファミリーなど。政界ネタでは安倍首相夫人アッキー、トランプ、宇野元首相。スポーツ界では卓球の石川佳純選手から、なでしこジャパン。このほか、歌舞伎、被災地、鉄道、インバウンドと話題になるネタはかなり幅広い。スキャンダル記事を扱う週刊誌だけに、不倫ネタ、下ネタも絶好調だ。

 45本のエッセイは、「ブラキャミ出勤は是か非か?」や「年収一千万円のゆるふわ」などタイトルから興味をそそる。コミカルに、さらりと皮肉や自虐を織り交ぜた内容に、男性読者は、フムフムと読み進み、途中でニヤリと共感し、後半では苦笑あるいは爆笑してしまうという展開だろう。例えばこんなエッセイがある。

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「前妻と現妻」
 ここは登場人物が多い。石田純一ファミリーを源氏物語にたとえ、岡本かの子、藤原紀香も出てくる。前妻と現妻は果たして平和に共存できるのか…

「究極のモテ男が遺したもの」
 その歌舞伎役者の女性関係は華やかだった。多くの女優たちと浮名を流したが、究極のモテ男が女性だけでなく、男性にもモテたそのコツとは?

 このほか、一番の関心事、男のロマン、不倫ネタにも積極的に書いている。

「不倫は巡る」では、都会のストレスが男女を狂わせるという説も。夫の不倫より妻の不倫の方がスリリング? 今の時代に姦通罪があったらどうなるか…。

「不倫の地味化」では、バブル時代の優雅さとは違い、不倫にも価値観の変化が…。ベッキーを例に挙げ、「地味さ」と「本当の幸せ」をばっちり検証している。

 外せないのが、やっぱり下ネタだ。

「春画はアートか?」
 大英博物館で評価されたという春画展。生々しい描写やあり得ないシチュエーションに、日本人の性的好奇心をあらためて分析しつつ、酒井氏の妄想はヒートアップする。

「中高年男女の相性」
『婦人公論』と『週刊現代』の人気シリーズ、中高年のセックス特集の具体例から見える男性の幻想とは? 高齢化大国ニッポンの元気の源?

 すべてのエッセイに「オチはそう来るか!」という気持ちいい落着感がある。隠していたものを見られちゃったような照れくささと、すべて手放したような爽快さは何なのか…。「スキャンダルは生活の中で嗜好品のように消費されるもの」という酒井氏。なくても生きていけるが、景気、不景気に関係なく、いつの時代もあればありがたく、楽しめるという存在だ。時代の対比と共通点を探る独特な解説、苦さ、エグさの中に見るやさしさ。言っちゃったもん勝ち、暴いちゃったすっきり感、だからスキャンダルはおもしろい。こっそり立ち読みせず、ぜひ全編を読んでこの清々しい読後感を味わってほしい。

文=藤本雪奈