『シン・ゴジラ』鑑賞後に必読の1冊! 60年にも及ぶ『ゴジラ』の歴史を役者とスタッフの視点で振り返る!

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公開日:2016/9/27

『ゴジラとともに 東宝特撮VIPインタビュー集』(別冊映画秘宝編集部:編/洋泉社)

 夏の熱狂から未ださめやらぬ『シン・ゴジラ』。読者諸氏はご覧になっただろうか? 小生は遅ればせながら9月に入りやっと鑑賞。勿論、大満足だった。新たなゴジラ像を描き出しながらも、所々に従来の「ゴジラ」シリーズへのオマージュも折り込み、マニア心をくすぐられる。そうなると旧シリーズにもまた興味が膨らんできて、いくつかの作品を見返しているところである。他にも、ゴジラ関連で面白い話はないかと探しているうちに見つけたのが、この『ゴジラとともに 東宝特撮VIPインタビュー集』(別冊映画秘宝編集部:編/洋泉社)だ。

 本書は東宝特撮を彩ってきたキャストやスタッフ総勢18名に及ぶインタビューを、当時の写真資料とともに振り返っている。掲載写真は撮影風景やミニチュアセットのほか、役者たちのオフショットなど多彩で、実に興味深い。特に注目したいのは初代『ゴジラ』で芹沢博士を演じ、以降さまざまな役柄で存在感を発揮してきた平田昭彦氏(1984年没)のインタビューだ。

 この平田氏のインタビューは没年である1984年に行なわれたものだ。遺作となった『さよならジュピター』撮影後のようで、メカがふんだんに登場する『さよなら─』に対し、その特撮技術に敬意を払いながら「僕はどっちかっていうと、とにかく、怪獣が出てくる特撮映画のほうが好きだなぁ」と言ってのけるのも印象的だ。氏は当初から「ゴジラ」シリーズを気に入っていたようで、インタビューの端々からそのこだわりを感じる。

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 例えば氏自身、「ゴジラ」のモチーフのひとつである「第五福竜丸事件」には憤りを感じており「怒りですね。何かそういうものが全部、あの『ゴジラ』に出てきたという点で、まず非常に脚本に共鳴、感銘しましたね」と述べている。「第五福竜丸事件」とは1954年に米軍が行なったビキニ環礁での水爆実験によりまき散らされた放射性物質を、その当時近海で操業していた日本の漁船「第五福竜丸」とその乗員が大量に浴びたというものだ。当時、大きく世間を騒がせた事件で、小生はそれに対するアンチテーゼとして『ゴジラ』が高く評価されていたのだと思っていたが、インタビューによると当時の批評家たちには特撮部分の評価は高いものの「キワモノ扱い」されていたということが意外だった。

 そして、芹沢博士たちの「人間ドラマ」部分が当時は注目されず、演ずる平田氏自身も特撮表現に目を奪われ、その価値を忘れていたという。しかし、後年にビデオの「小さな画面」でじっくり鑑賞した際に「人間が良く描けてるなあ」と思い返している。『シン・ゴジラ』が一部で「ドラマ性が希薄だ」などの評価もあるが、あわせて考えるとなんとも不思議なめぐり合わせである。

 小生など初代『ゴジラ』を初めて見たのは90年代半ば、深夜のテレビ放送でじっくりと鑑賞したのが幸いしたのか、そのドラマ性に驚いた覚えがある。既に昭和作品も平成作品も何本か見た後だったのだが、そのモノクロながらも迫力のある映像と、人物描写にズシッとした重みを感じていた。特に、戦争の記憶が生々しい時代の、市井の人々が発する言葉にはハッとさせられたものだ。ゴジラの襲来で人々が逃げ惑う中、子供を連れた母親が「もうすぐお父様のところへ行くのよ!」と半ば狂乱しつつ叫ぶ姿や、「原爆から生き残ったのに、また疎開か」とつぶやく若い女性も印象的だった。

「怪獣映画」の主体はやはり怪獣だと思う。だが、その魅力を最大限に引き出すには人間ドラマも重要ではないだろうか。なぜなら、登場人物たちは我々観客に成り代わって、画面の中で怪獣たちと渡り合い、画面の外にいる我々とその世界を繋いでいるからだと、小生は考えている。本書はその役者、そしてスタッフたちの情熱を十分に堪能できる1冊だ。その情熱は『シン・ゴジラ』にもしっかりと受け継がれている。3.11を経験したからこその人間描写は、特に注目してほしい。

文=犬山しんのすけ