累計55万部を突破! 刀たちに残された想いを解き放つ“高校生研ぎ師”を描いたマンガ『KATANA』の魅力に迫る

マンガ

公開日:2016/9/27

『KATANA』(かまたきみこ/KADOKAWA)

 古来より伝わる技法により生み出されてきた日本刀。その鋭い切っ先は月日を経ても光を失わず、美術品としての価値も高い。そんな日本刀をモチーフにし、ロングセラーを記録しているマンガがある。それが『KATANA』(かまたきみこ/KADOKAWA)だ。9月26日(月)には最新巻である第16巻が紙版・電子版ともに発売され、その累計は55万部を突破しているという。さらに最近では、名刀を擬人化したブラウザゲーム「刀剣乱舞」のヒットも手伝い、さらなる注目を集めているとか。いったい、刀剣のなにが人を魅了するのだろうか。

 本作の主人公は、高校生の成川滉。彼は伝統ある刀鍛冶の家に生まれ、祖父と父、ふたりの刀匠の背中を見て育った。彼自身、“研ぎ”の技術だけは身につけたが、家を継ぐ気なんてさらさらない。“刀鍛冶の家の子”という色眼鏡で見られ、幼い頃から嫌なことばかり経験してきたからだ。

 しかし、滉がいくら家を継ぐことを嫌がっていても、刀は彼を必要とする。それは、彼が“刀の魂魄を見る”という特殊能力を持っているから。刀に備わった魂を見ることができる滉は、刀たちからすると自分の想いを汲んでくれる貴重な存在。それ故に、彼は刀にまつわるさまざまなトラブルに巻き込まれてしまい、その都度、刀たちの想いを叶えていくことになるのだ。

advertisement

 刀たちが抱く想いは、実に多種多様。家人を守るための力がほしい、因果の鎖を断ち切ってもらいたい、忘れ去られてしまった自身の存在に気づいてほしい……。その想いを叶えるため、彼らは滉に“研ぎ”をお願いするのだ。そんな滉を“持ち主”と任命するのが、由緒正しい幸御一族の襲刀(かさねがたな)。少年の姿を持つ襲刀は、滉を助け、時に共闘し困難なトラブルに立ち向かっていく。

 やがて、クラスで浮いていたはずの滉にも仲間ができる。刀に取り憑かれてしまった教師に襲われた京崎多樹雄、怨念に惑わされた伯父からの嫌がらせを受けていた葉月絵里、刀との約束に囚われていた有栖孝。彼らはみな、滉に救われ、彼を慕うようになっていくのだ。

 本作の物語は、基本的に一話完結の体を成す。上述のように、滉が刀にまつわる問題で困っている人を助け、トラブルを解決していくのである。しかし、第15巻ではいよいよ襲刀が抱える闇へと迫っていく。なぜ彼は滉を持ち主として認めたのか。彼は滉になにを望んでいるのか。その深淵が明らかになるのだ。それを乗り越えた滉と襲刀は、一際“研ぎ”への想いを強くし、続く第16巻では、また新たな問題解決へと進んでいく……。

 ちなみに、本作には、刀にまつわる豆知識も豊富だ。刀の成り立ちや作られ方はもちろん、当時のまじないや儀式、歴史の授業では学ぶことができないような事柄が詰め込まれている。

 その一本一本に、ぼくらの想像も及ばないような背景がある、刀。これまで刀剣に興味がなかったという人も、本作を読めばきっとその魅力にハマってしまうだろう。

文=五十嵐 大