「古典部シリーズの新刊…どれだけ待ち続けたことか!」6年ぶりの最新作で明かされる、奉太郎の過去とは?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13

※書影は〈古典部〉シリーズ1作目『氷菓』。リンク先は最新刊『いまさら翼といわれても』

「習い性となる」という言葉があるように、習慣は人の性質を作る大きな要素だが、その習慣が始まったのにも何らかの原因がある。その原因は、必ずしも前向きなものではないかもしれない。時には、やる瀬なくてほろ苦い過去の経験が原因の場合もある。米澤穂信氏による「日常の謎」ミステリー〈古典部〉シリーズの最新刊『いまさら翼といわれても』(KADOKAWA)では、主人公・折木奉太郎の性格の秘密、そして、その変化が描かれる。

〈古典部〉シリーズといえば、文庫だけでも累計191.7万部を突破している大人気シリーズ。文化系部活動が活発なことで有名な進学校・神山高校で「古典部」という廃部寸前の部活に入部した男女4人が、学校生活に隠された謎に挑む推理小説だ。シリーズ第一作で米澤氏のデビュー作でもある『氷菓』は2012年にアニメ化され、今なお多くの人を魅了し続けているが、新刊刊行はなんと6年ぶりのこと!「古典部シリーズの新刊…どれだけ待ち続けたことか!」「はやく読みたい!」と、小説ファンもアニメファンも発売に歓喜。

6つの短編から構成されている本作でも、折木奉太郎を始めとする古典部のメンバーが日常に起こる事件の謎に迫っていく。

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特に、主人公である奉太郎の変化は目覚ましい。彼は、「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」というモットーを持つ“省エネ主義者”だったはずだ。だが、古典部の仲間に巻き込まれる形で謎を解いていくうちに、自然と彼自身も、自ら進んで行動するようになっている。そして、「長い休日」では、彼が“省エネ主義者”となった遠因ともいえる小学6年生の出来事も明かされる。昔は何でも積極的に人の頼みをこなす少年だった奉太郎。任された委員会の仕事。ある事件と、担任の態度。過去の苦々しい出来事と、今、変わりつつある性格…。最近の、彼のモットー外れの行動の原因がわかってくるにつれて、心がほっと温かくなる。

変わっていくのは、他の古典部部員とて同じだ。表題作「いまさら翼といわれても」では、シリーズのヒロイン、豪農千反田家の一人娘・千反田えるの葛藤を、「わたしたちの伝説の一冊」では、漫画研究会にも所属する伊原摩耶花の葛藤を描く。彼女たちもまた彼女たちの悩みを抱え、苦しんでいる。それを支える、古典部男子部員たち。事件を経るごとに、彼らの絆は一段と深まっていく。

〈古典部〉シリーズの魅力は、そのほろ苦さにあるのだろう。ここには、綺麗ごとは描かれていない。部員たちが解き明かす謎の背景には、学生生活のなかで感じるどうしようもできないこと、切ないこと、等身大の高校生たちの悩みが隠されている。だが、彼らはそれを一つずつ受け入れて、一つずつ乗り越えていくのだ。そんな彼らの成長からどうしても目が離せない。元々のファンもそうでないものも、この待望の新刊を読まない手はない。

文=アサトーミナミ