歴史本なのに年号がほぼ出てこない! ピース又吉も「するすると頭に入った」と大絶賛した『超現代語訳 戦国時代』【房野史典さんインタビュー前編】

文芸・カルチャー

更新日:2018/8/24

年号と名称、出来事についてひたすら暗記しまくる……「日本史」に対するイメージはこんな感じだろうか。そんなこともあって、大人になっても歴史に苦手意識があるという人も多い。しかしその概念をぶち壊す、破天荒な歴史本が登場した。お笑いコンビ「ブロードキャスト!!」の房野史典さんによる本書では、まるで戦国武将たちが自分の目の前で今どきの口調でやり合っているかのような会話が展開する。笑いあり、涙ありな物語のおかげで、「歴史が動いた瞬間」がスッキリ理解できると評判で、連載された「幻冬舎plus」ではなんと200万PVを記録した人気連載だった。それを一冊にまとめたのが『笑って泣いてドラマチックに学ぶ 超現代語訳 戦国時代』だ。いったい本書はどのように生まれたのか、著者の房野さんに直撃した!

ブロードキャスト!! 房野史典さん

【プロフィール】
ぼうの・ふみのり お笑い芸人。1980年岡山県生まれ。名古屋学院大学卒。2001年4月、大学の先輩だった吉村憲二と結成したお笑いコンビ「ブロードキャスト!!」でツッコミを担当する。天然系ボケの吉村へのスピーディーかつ攻撃的にツッコむ漫才を得意とする。ロバート山本博、はんにゃ金田哲ら歴史好き芸人と結成した6人組ユニット「六文ジャー」のメンバーとして、月一開催のライブ「軍師と足軽」を行っている。

誰に頼まれもせず、趣味でフェイスブックに書き始める

――本書は2016年2月28日に【もうなんか昼ドラみたい】というタイトルで「応仁の乱」についてフェイスブックに書いたものが元になって、それが「東大生も唸った! 超現代語訳・戦国時代」として4月末から「幻冬舎plus」で連載されたそうですが、そもそも書き始めたきっかけは何だったんですか?

房野史典さん(以下、房野) 何か新しいことをやりたいねという話を、今は構成作家になってる山口トンボっていう同期のヤツと話してたら、「房野は何かを解釈したり、人に噛み砕いて伝える能力がある」と言われて。それでいろいろ考え始めたときに、キングコングの西野(亮廣)さんが「何かやるなら今はフェイスブックだよ」って教えてくれたんです。文字として残るし、面白いとなったらどんどん広まる、と。僕もフェイスブックはやってたんですけど、全然重要視してなかったんです。それで、自分が好きで、ライブでもやってた「戦国時代」の話をやってみようと思って書いて、翌日にすぐアップしたんです。それを西野さんがシェアしてくれたこともあって、いいね!、コメント、シェアが「こんなに来るの!?」というくらい来たんです。

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――「応仁の乱」の原因となった足利義政の「あ~もう将軍やめたいなぁ……。そろそろバトンタッチしたいな……」というボヤキから、嫁と弟がいがみ合って家の中がドロドロぐちゃぐちゃになる様子が面白おかしく、スピーディーに描かれてますよね。

房野 歴史に残ってることとか、昔のことって、凄かったと思いがちですけど、今と変わらないはずで、「あいつムカつく」みたいなテンションから始まったことだっていっぱいあったはずなんです(笑)。そういうことを書いてみたいなと思って。ただ僕はそれまでは、ブログとか、長い文章って書いたことなかったんですけど、一日一章くらいのペースで書いてました。これを書いてるときは、とにかく楽しかった。もともとはライブで話していたことなので、頭の中にあったやつを出したって感じなんですけどね。まあ、誰に頼まれたわけでもないし、僕としては趣味だったので、スマホで書いて、2、3回見直して、文字が間違ってなくて、文章が自分なりに納得できればOKって感じで。

――え! スマホであの長文を書いてたんですか?

房野 はい、それで腱鞘炎になりかけて「右も左もどっちも痛ぇじゃん!」ってなって。そしたらトンボに「いや、そこはパソコンだろ!」って言われて、そうだよなって思って買ったら……便利でしたね、当たり前ですけど (笑)。

★「応仁の乱」試し読みはこちら

歴史本なのに、◯◯がほぼ出てこないワケとは?

――「応仁の乱」に続いて「関ヶ原の戦い」、そして現在大河ドラマで放送されている真田信繁を取り上げた「真田三代」が本書に収録されています。

房野 ライブの時って女性のお客さんが多いんです。今でこそ「歴女」の女性もいらっしゃいますけど、基本、歴史好きな人って多くはないんですよ。なのでこれを書く時に「この単語は知ってるだろう」という前提で進めるのが一番アウトだなと思ったんです。それで、「幕府」とか「将軍」とか、そういう語句の意味についてもちゃんと説明するように心がけました。また、いろんな説があったり、わからないことがあると、その都度国会図書館へ行っていろんな文献を調べました。そしてこの本では、なるべく“今”言われている「本当のこと」を書いていますけど、若干エンタメに寄せたい部分もあるんで、こっちのほうが楽しいとか、ロマンがあるなっていう方を選んで、「諸説ありますよ」という書き方をしつつ、僕なりに物語にしました。あとはもう自分の趣味なので、思ってることだけじゃなくて、映画とか音楽とか、自分が体験してきたエンタメをバンバン入れて、誰にもわかってもらえなくてもいいや、ってようなネタも全部ブチ込みました(笑)。

――関ヶ原の戦いのクライマックスは「パルプ・フィクションとレザボア・ドッグスとキル・ビルを足して3倍にした感じ」と、クエンティン・タランティーノ監督の映画が列記された章もありますしね(笑)。

房野 歴史物をこんな風に表現したのは初めて見た、って書店の方に言われました。ただ、こういう小ネタを省いて読んでも歴史の流れはわかるように書いたつもりなので、もう入れ込んでまえ!と思って(笑)。でもこのおかげで、歴史に興味なかったとか、そんなに好きじゃないと言ってた人も戦国を好きになってくれたり、面白いって言っていただけるんです。

――歴史の勉強でも、まずこうやって歴史の流れをつかむと楽しいし、もっと知りたい!と思えますよね。

房野 これは知り合いの大学教授が言ってたんですけど、日本のテストって、問いに対して自分の記憶の引き出しの中からパッと答えを出せるか、というやり方なんだそうです。そうなると、歴史は年号と、人物と、出来事の内容を覚えればいい、ってことになっちゃう。だからしょうがないところはあるんですよね。僕はたまたま、歴史と武将が好きだったんで、流れが頭の中に入るような感じで覚えてたんです。

――そうやって覚えると、体にスッと染み込んできますもんね。しかもこの本って、年号がほぼ出てこない。これは歴史について書かれたものとしては異例ですよ! 本文に出てきた年号は、関ヶ原の戦いがあった1600年と武田信玄が死んだ1573年、あとはネタ絡みで出てきた細川護煕内閣が発足した1990年代と、20万人が集まったGLAYのライブがあった1999年だけ!(笑)

房野 そこ、ちょっと気をつけたんですよ! 年号を書こうかなと思った瞬間もあったんですが、でもよくよく考えたら要らないな、と。というのも、歴史アレルギーのある人って年号が苦手なんだろうなと思ったからなんです。もちろん何年に何が起こったかっていうのは、歴史を学ぶ上では大切なことです。でも話の流れの面白さを知る上で、年号は必要ない。なので、まずは武将とか起こった出来事の“核”をつかんでもらって、「面白い」と感じてもらいたいなと思ったんです。それで流れを知った後、歴史に興味を持ってくれた人は自分で年号を調べてもらったらいいか、って。

――本書の帯に言葉を寄せているピースの又吉直樹さんの「『するする』と頭に入った」という言葉の秘密は、そこにあるのかもしれないですね!

房野 かもしれないですね。それで幻冬舎plusで連載が始まって、もしかしたら後々本になるかもしれない、ということで又吉さんに相談したんですが……

―おお! ではその話は【後編】で詳しく伺います!

⇒【後編】はこちら

取材・構成・文=成田全(ナリタタモツ)