政治ニュースをスター・ウォーズ、ガンダムで読み解く!? 世界の仕組みは、フィクションの中にある!!

エンタメ

公開日:2016/10/4

『スター・ウォーズに学ぶ「国家・正義・民主主義」』(岡田 斗司夫/SBクリエイティブ)

 アニメ『機動戦士ガンダム』の評価の一つに「勧善懲悪ではない」というのがあるが、勧善懲悪を「正義が悪を倒す」と解釈しているのなら、それは誤解である。「善を勧め悪を懲らしめる」という意味で、『月光仮面』が「正義の味方」であり「正義そのもの」ではなかったように、勧善懲悪は決して単純な「善対悪」という物語ではない。ガンダムが画期的だった点は、敵味方双方に「それぞれの正義」がある政治劇を取り入れたことだろう。

スター・ウォーズに学ぶ「国家・正義・民主主義」』(岡田 斗司夫/SBクリエイティブ)は、映画『スター・ウォーズ』のみならず、ガンダムのモビルスーツの元ネタでもある小説『宇宙の戦士』といったSF作品を取っ掛かりに、そんな政治学を学べる参考書である。

 政治的な対立軸には独裁制と民主制があるわけだが、著者は手始めに「スター・ウォーズ」シリーズを政治的寓話として解説している。エピソード1から3は銀河共和国が銀河帝国へと移り変わる物語で、これは古代ローマをモチーフにしているそうだ。古代ローマは、一般市民の意思も政治に反映される元老院による共和制だったが、多数の議員がおり機能不全に陥っていたという。そこで台頭してきたガイウス・ユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)が国政改革を進めていく中で、君主が支配する帝政への流れを作った。

advertisement

 エピソード6において、銀河帝国を反乱軍が倒し人間中心の時代がやってくる予感で幕を下ろしたものの、エピソード7では銀河帝国残党とレジスタンスの戦いが描かれており、フセイン政権が倒れたあとのイラクの混乱を重ねてみると、独裁者を倒すことが正しいことなのかと考えさせられた。

「政治をネタに遊んでみる」ことを勧める著者は、2016年に起こったニュース「英国のEU離脱」をガンダムでたとえてみせる。ガンダムは、地球から最も遠いスペースコロニーのサイド3が地球連邦に独立戦争を挑む物語で、作中の歴史では独立を主張した思想家のジオン・ズム・ダイクンが、独裁を目論むザビ家によって暗殺され、サビ家一党はジオン公国を名乗り地球連邦に宣戦布告した。それを著者は、地球からの独立について「サイド3の国民は全員賛成だったのでしょうか?」と考える。独立を主張するジオンと、自分たちの利権さえ確保できればいいとするザビ家、そこへ人気取りのために国民投票を呼びかける政治家が現れて、やってみたら僅差で独立派が勝ってしまい、ザビ家は嫌々ながら独立戦争を始めることに……。

 ニュースを見聞きして「こういう設定にすると、もっと話が面白くなるんじゃないか」と考えることで、現実も多様な視点から見ることができると、著者はアドバイスしている。

 また、著者はSF作家ロバート・A・ハインラインの小説『月は無慈悲な夜の女王』を紹介し、「リバタリアニズム」を「政治を考えるための補助線として」使ってみてはどうかと提案している。リバタリアニズムとは「自由至上主義」などと訳され、国家や政府を廃止し個人の自由を何よりも大事と考えるそうだ。過激な無政府主義を連想してしまうが、著者によると「リベラリズム」が弱者への福祉を政府に任せるのに対して、大きな組織や国家を信用しないため、「弱者への福祉を政府に任せない」ということであり、小説に登場する老教授のセリフから「それぞれが自身の行為に責任を有するのですよ」と引用している。

 本書は、「中学2年生にもわかる政治学」を目指したそうだから、既存の権威に反抗心を持ったり自己探求する思春期の気持ちで読んでみたりするのもいいだろう。学校の勉強そっちのけで、戦争反対を唱える政治的なデモに参加していた若い頃の自分にこそ読ませてやりたかった。

文=清水銀嶺