街中で“ヤバすぎる恍惚感”を味わえる場所・サウナ。その魅力を世に広めた『サ道』が文庫化

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13

サ道 心と体が「ととのう」サウナの心得』(講談社+α文庫)

 子供のころ、「いつか大人になったら、その楽しさが分かるんじゃないか」と思っていたものがある。

 イカの塩辛や銀杏の美味しさとか、一人でゆったり温泉に浸かる楽しさとか、マッサージの気持ち良さとか……。その大半は、いつの間にか分かるようになっていたのだが、30歳を過ぎても、何が良いのか全く分からないものがあった。

 サウナだ。

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 近年のサウナブームの立役者のタナカカツキ氏も、その楽しさに気付いたのは40代に入ってからだという。この9月に文庫化された著書『サ道 心と体が「ととのう」サウナの心得』(講談社+α文庫)には、彼が「とつぜんサウナがわかってしまった」瞬間の、驚きと興奮の体験が綴られている。

 ドアを開けると漂ってくる、優しい木の香り。サウナ→水風呂→サウナ→水風呂と移動を繰り返す、“サウナの正しい入り方”の発見。キラキラと煌く水風呂の水面。しだいに体がじ~~~んとしてくる。揺らぎはじめる目の前の景色。整う呼吸。そして訪れる、瞑想状態のような境地……。

 何だか「宗教への目覚めを綴った告白の書」とか、「いけないドラッグの体験記」を読んでいるような気分になってくる。しかし、文章とマンガで表現されたそのサウナの描写は天上の楽園のように美しく、本当に気持ちよさそうなのだ。

「そんなに気持ちいいのなら……」と、筆者は本書を読み終わってすぐ、近所の銭湯のサウナへ。本書の入り方を実践してみた。ちなみにサウナも水風呂も、これまではともに苦手だった。

 するとどうだろう。刺すように冷たく痛かった水風呂が、太陽に焼かれるように暑かったサウナが、とても心地よく感じられるのだ。水風呂ではポカポカの身体に冷気がジワジワ体に溶け込んできて、まるで体と水が溶け合って一体となっていくような感覚になる。

 逆にサウナでは、冷凍された肉がゆーっくり解凍されていくように、冷やされた体がじわじわと温められていく。だからさほど暑くないのだ。そして外の世界と自分の体が溶け合い、自分の意識も体を飛び出して世界へと広がっていく……。

 何だかとてもヤバい種類の気持ちよさだ。同じような体験・現象が全員に起こるとは限らないそうだが、みんなこっそり読んで、こっそり実践してみてほしい。ちなみにタナカ氏はサウナに目覚めた時期、全編CGのビデオドラッグ映像作品を作っている最中だったそうだ。

文=古澤誠一郎