冲方丁の新たな代表作が誕生!集団自殺のために“必死”の議論と推理を重ねる『十二人の死にたい子どもたち』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13

『十二人の死にたい子どもたち』(冲方丁/文藝春秋)

 第24回日本SF大賞 を受賞した「マルドゥック・スクランブル」シリーズをはじめ、『天地明察』(吉川英治文学新人賞・本屋大賞受賞)、『光圀伝』(山田風太郎賞)といった数々の話題作を世に送り出してきた冲方丁。そのデビュー20周年記念作にして、初めての現代長編ミステリーが『十二人の死にたい子どもたち』(文藝春秋)だ。

 タイトルの元ネタになっているのは密室劇の金字塔ともいわれる『十二人の怒れる男』。こちらは12人の陪審員たちがある殺人事件の評定を下すまでの議論を描いたものだが、『十二人の死にたい子どもたち』が描くのは、タイトルが示す通り死を願う12人の子供たちの「自殺を決行するか否か」をめぐる議論だ。

 物語の舞台となるのは廃業した病院。14歳から17歳まで12人の少年少女たちは暗証番号によるセキュリティをパスして建物に入り、受付カウンターの金庫に用意されていた1~12までの数字板をそれぞれ手にして、“集いの場”である地下の多目的ルームへ向かう。初対面同士の子供たちが集まった目的は、安楽死。睡眠薬と練炭を使った集団自殺の実行だった。集いの前に何百項目にも及ぶ心理テストで自殺の意志が確認され、全員分の遺書もインターネットサーバに保存。予定時間の正午に多数決を取れば、集いの原則である“自由意志による全員一致”で計画通りに安楽死が実行できるはずだった。ところが“集いの場”に用意されていた12床のベッドのひとつには、実行を前に1人の少年がすでに横たわっていた。1から12までの数字板を持たない、この少年は誰なのか。自殺か、他殺か。12人のうち誰かが嘘をついている――!? 予定通りに安楽死を実行するべきか否か、集いの原則にしたがって子供たちは多数決を取る。実行賛成が11人、反対は1人。全員の意志が一致するまで、子供たちは議論を重ね、謎を解明するべく推理をしていく。果たして、その結論は。

advertisement

 死にたいと願っていることを除き、子供たちの性格、価値観、生育環境、人生に対する姿勢、すべてはバラバラに異なっている。そして、自殺の意志は共通していても、その理由もまたそれぞれまったく違うものだ。12人の子供たちを順番に視点人物に据えて内面から思考や感情を描いていくことで、そんな子供たちの個性、人生の状況が浮かび上がってくる。それと同時に誰からも見えてこない隠された“嘘”がどこにあるのか、巧妙に構成された物語はスリリングに展開していく。

 状況が目まぐるしく変わっていく濃密な会話劇とミステリーが一体となった本作の中心にあるのは、死に取り憑かれてしまった思春期の群像だ。子供たちの「死ななければならない理由」は、切実で深刻なもののあれば、稚拙なものも滑稽ですらあるものもある。しかし、それをぶつけ合う子供たちの“必死さ”に思春期ならではの熱と切なさを感じさせられる。子供たちは自分たちの死をめぐる、文字通り“必死”な議論のなかで何を得るのか。

 謎が解明されていく過程と“全員一致”を目指す子供たちの心情の移り変わりが密接に絡み合い、刻々と変化する状況と徐々に盛り上がる緊迫感に引き込まれ、それが意外な真相へたどり着く瞬間には実に大きなカタルシスがもたらされる。

 構想に12年もの歳月をかけたという本作。冲方丁の新たな代表作のひとつになること間違いなしの傑作だ。

文=橋富政彦