グルテンフリーでもおいしく! アメリカのグルテンフリー料理研究家がおいしさをとことん追求したレシピ

食・料理

公開日:2016/10/8

『おいしい! グルテンフリー:GLUTEN-FREE WISH LIST』(ジーン・ソバージュ/クロニカルブックス・ジャパン)

 近年、美容や健康に敏感な人の間で浸透しつつある「グルテンフリー」。小麦製品などグルテンを含む食品の摂取を避ける食事法だ。グルテンが体質的に合わない人がこれを行うと、ダイエットや美肌、脳のパフォーマンスアップといった、肉体的にも精神的にも良い効果が期待できるという。

 小麦や大麦などの麦類に含まれるたんぱく質・グルテンは、パンやケーキなどを膨らませるのに欠かせないものであると同時に、アレルギーの原因物質でもある。急性の食物アレルギーや、腸の免疫疾患であるセリアック病、さらに慢性的な体調不良状態に陥るグルテン不耐症といった、さまざまなアレルギー疾患を引き起こすことがあるのだ。特に、潜在的なグルテン不耐症を持つ人はかなり多いといわれている。日常的に小麦製品を常食するアメリカでは2000万人以上の人がこの症状に悩んでいるらしい。食の欧米化が進む日本でも、今後患者数の増加が懸念されている。

おいしい! グルテンフリー:GLUTEN-FREE WISH LIST』(ジーン・ソバージュ/クロニカルブックス・ジャパン)の著者もまた、グルテン不耐症を発症した1人だ。グルテンが原因でアレルギー疾患を発症した場合、症状をよくするためにはグルテンを食事から徹底的に除去する必要がある。パンや焼き菓子、パスタ、ラーメン、ビールなど小麦や大麦を使った製品は食べられない。その結果、食生活にかなりの制約が加わることになる。パン作りやお菓子作りが大好きだった筆者にとって、それは受け入れがたい現実だった。診断を受けてから最初の1年間は、市販の食品がグルテン入りばかりのものに見え、いったい何を食べたらいいのか見当もつかなかったという。さらに娘とクッキー作りをしたり、友人たちにお手製のデザートを振る舞ったりすることも難しくなる。悩んだ末に彼女がたどりついたのが、グルテンフリーでもおいしいレシピを開発することだった。今までと同じ食生活を送ることをあきらめない――そんな彼女の熱意が形になったのが本書である。

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 試行錯誤の結果、彼女は小麦粉と同じ感覚で使える自家製のグルテンフリーミックス粉を作ることに成功した。お菓子作りにはもちろん、パン作りやフライの衣にも使える万能の粉で、なおかつ市販品よりもお財布に優しい。本書のレシピは、ほとんどこの自家製ミックス粉を用いて作られている。記載されているレシピは約90。家庭で作れそうな、小麦粉を使う料理はほぼ網羅しているのではないだろうか。

 さらに本書の優れている点は、グルテンフリーというだけでなく、低アレルギー性の材料にこだわってレシピが作られていることだ。本書のミックス粉には、米粉が主な材料として使われている。米は麦類や大豆、ナッツ類などと比べ、比較的アレルギーを起こしづらいといわれている。グルテン以外のアレルギーの持ち主にも優しいミックス粉なのだ。また本書のレシピではバターや卵が使用されているが、乳製品や卵にアレルギーがある人のための代替品の紹介もされている。

 食べることは人生において、大きな喜びのひとつである。のみならず、人と同じ食卓を囲み、同じものを口にするということは、人間関係において重要なコミュニケーション手段の1つでもある。アレルギーが原因で食事制限を余儀なくされる辛さは、アレルギーのない人間にとって容易には想像がつかないものだろう。本書は一応グルテンフリーの本ということになってはいるが、その他の食物アレルギーに苦しんでいる人にとっても、食の喜びを取り戻す手助けになる。さらに代替品を利用すれば植物性の材料オンリーで作れる点からベジタリアンの人にも、また米粉ベースのミックス粉を使っている点から米粉レシピのバリエーションを増やしたい人にもおすすめだ。グルテンフリーという表題を超え、多くの人のニーズに応えてくれる1冊になるだろう。

文=遠野莉子