直木賞受賞作『破門』の続編! ミステリ史上“最凶”と名高い「疫病神」コンビが、選挙戦の暗部に迫る!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13

※書影は前作『破門』(黒川博行/KADOKAWA)、リンク先は『喧嘩』

 「縁」というものがこの世にあったとして、それが「良縁」ばかりとは限らない。運命の糸の先には、スジモノの強面男がいる場合だってある。「疫病神」としか呼べないようないけ好かない男を相棒に持ったら、一体日常はどうかき乱されていくのだろう。

 黒川博行の『喧嘩』(KADOKAWA)は、ヤクザを相手に大金を狙う痛快なハードボイルド小説。口だけ達者な建設コンサルタント・二宮啓之と、半年前に破門された元ヤクザ・桑原保彦の凸凹コンビが活躍する「疫病神」シリーズの最新作である。このシリーズの5作目『破門』が直木賞を受賞したように、このシリーズはどこから読んでも底抜けに面白い。『破門』は佐々木蔵之介&関ジャニ∞・横山裕主演で映画化され、2017年1月28日に全国公開。その続編となる本作、『喧嘩』も話題を呼ぶこと間違いない。

 舞台は大阪。主人公・二宮は、貧乏金なしの39歳、非モテ男。建設コンサルタントを名乗る彼は、ビルやマンション、自治体の再開発といった建設現場にまとわりつくヤクザをヤクザで抑える “サバキ”を生業にしている。しかし、昨今、甚だしく景気が悪い彼は、議員秘書の長原の依頼で、選挙に関するヤクザ絡みのトラブル処理を請け負うことになる。二蝶会を破門された「疫病神」桑原に協力を頼んだことが運の尽き!? 組の後ろ盾を失っている桑原だったが、選挙戦の暗部に金の匂いを嗅ぎつけ、何があろうととことん食らいついていく。協力をあおいだはずが、いいように振り回される二宮。トラブル処理どころか、いく先々でますますトラブルを起こしそうな桑原。2人は事件を解決し、大金を手にすることができるのか。

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 二宮と桑原は決して仲が良いわけではない。むしろ互いのことを煙たく思い合っているはずなのだが、関西弁で繰り広げられる2人の掛け合いは、絶妙。時にきな臭く、時に血なまぐさいシリアスな物語の展開とは対照的な上方落語のようなやりとりには思わず吹き出してしまう。いったん金の匂いを嗅ぎつけたら、食いつき、離れない桑原と、それに巻き込まれながらも、少しでも報酬を得ようと食らいつく二宮。堅気を名乗りながらも全く堅気には思えず、ヤクザのふたり組を見ているようだ。二宮は桑原のことをまるで「疫病神」だと思っているが、それは、桑原にとっても同じである。そんな「疫病神」コンビは、毒を吐き合ってはいるが、なんだかんだいって相性が良いのかもしれない。

「桑原さん、ほんま、堪忍してください」
「何を堪忍するんじゃ。おまえはわたしのバディーやぞ」
「なんです、バディーて」
「相棒じゃ。責任はとらん。そやのに金はとる。ええ性根やのう」

 選挙の票集めをめぐる暴力団とのトラブルかと思いきや、事件の根底には、さらなる問題が隠されている。情報をかき集めるたびに、次第に浮かびあがる疑惑。敵を陥れるために講じられるさまざまな策は、なんとも痛快。時に笑いを誘い、時に手に汗握らされる、カネをめぐってのドタバタ劇は、エンタメ小説の最高峰だ。

文=アサトーミナミ