炎上、出会い系、ネット依存…AKB48と考える、中高生が直面するスマホ問題

暮らし

公開日:2016/10/16

『実践! スマホ修行』(藤川大祐、岩立沙穂、岡田彩花、村山彩希、飯野 雅、大川莉央、込山榛香/学事出版)

 電車やバスに乗っていると、ほとんどの乗客がスマホを眺めていて驚くことがある。そういう自分もまた手にはスマホを持っているので、なおさらだ。もはや現代人の日常から切っても切れない存在となったスマホだが、便利なだけではない。これまででは予想もつかなかった新しい問題を社会にもたらしているのである。

 物心ついたときにはすでにスマホが手元にある時代を生きる世代に対し、大人は何を教えるべきなのだろうか? 『実践! スマホ修行』(学事出版)はそんな不安に応えてくれる新時代のテキストだ。本書は千葉大学教育学部の藤川大祐教授が中心となって刊行している「授業づくりエンタテインメント!」シリーズ第2弾であり、SNSの炎上や出会い系サイトの誘惑、ネットを使ったいじめやネット依存といった、中高生が直面するかもしれない問題を徹底的に討論していく一冊だ。基本的には学校の授業での使用を前提とした構成になっているが、大人が読んでも考えさせられるところの多い内容になっている。

 今回、藤川教授と一緒にスマホ問題を討論していくのは人気アイドルグループAKB48の現役メンバーたち。いかにも中高生受けを狙った人選、と甘く見てはいけない。当たり前のようにスマホでアプリやLINEを使いこなす若者世代である彼女たちはしかし、ブログや有料モバイルメール、Twitter、Google+といった複数のSNSを使いこなす、いわばユーザー側のエキスパートでもある。世間からの注目度が高いだけに、SNSが炎上する確率は一般人よりもはるかに高く、それだけに自然とネットリテラシーが磨かれており、討論相手としてはぴったりなのだ。

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 例えば、炎上対策として投稿の際に心がけていることについて、岩立沙穂は語る。

私はうろ覚えの言葉がよくあるので、そういうときには必ず意味を調べます。また、気をつけているのが、誰かが悪い気持ちにならないかなということです。

 当然のことのように思えて、なかなか実践するのは難しい。手軽さが売りのスマホを使い続けていると、ついつい発する言葉が軽く、迂闊になりがちだ。しかし、炎上体験などの失敗を糧としながら、彼女たちは自分なりの工夫をしてスマホと付き合うようになっていく。彼女たちの経験則は、スマホユーザーへのアドバイスとして自然に機能している。

 また、ライブ映像やテレビ番組の違法ダウンロード問題については、当事者としての複雑な心境が語られてもいる。拡散が許される情報と許されない情報の線引きとして、込山榛香が「有料サービスで得た情報は拡散してはいけない」と主張するのは的確な意見である。

 一方で、スマホユーザー「あるある」も数多く登場する。LINEグループで先輩に対し思わずタメ語で返してしまったり、人見知りを誤魔化すために親しくない人の前では自分からスマホをのぞいてしまったりと、これらは多くの人の共感を呼ぶエピソードと言える。

 おそらく、多くの学校でもスマホやインターネットについての授業は行われていることだろう。しかし、大人たちの意見だけで構成されたテキストよりも、同世代のアイドルの生の声が収められた本書のほうがはるかに説得力を持つのは間違いない。中高生がスマホ問題を身近なものとして捉えるきっかけになるはずだ。大人にできることは、AKBメンバーのように、中高生たちがスマホについて深く考える場を設けることではないだろうか。

 そして、AKBファンにとっても見所のある箇所があると付け加えておきたい。第4章でスマホ時代の男女交際について、意見を求められたときにメンバーの恋愛感が語られているのである。中でも岡田彩花の「スマホでずっとつながっていると思うと、恋愛もすぐに冷めてしまう」という意見は一読の価値アリだ。

文=石塚就一