朝ドラ『べっぴんさん』の今後の展開は?

テレビ

公開日:2016/10/21

『NHK連続テレビ小説 べっぴんさん 上』(渡辺千穂:作・中川千英子氏ノベライズNHK出版)

 芳根京子がヒロインを務めるNHKの朝の連続テレビ小説『べっぴんさん』が好評だ。初回視聴率は『あまちゃん』から8作連続での初回20%超え、21.6%を達成。今回の朝ドラのモデルは子ども服 専門店「ファミリア」の創業者・坂野惇子だというが、今後ドラマはどう展開していくのだろうか。ヒロインが子ども服 作りを始めるきっかけとなる妊婦・エイミー・マクレガー役に2014年後期朝ドラ『マッサン』のヒロイン、シャーロット・ケイト・フォックスが起用されるなど、これからの展開が気になる。

『べっぴんさん』の脚本は、フリーアナウンサー・羽鳥慎一氏の妻で、『名前をなくした女神』『ファースト・クラス』などの脚本で知られる渡辺千穂氏が担当。渡辺千穂氏作・中川千英子氏ノベライズの『NHK連続テレビ小説 べっぴんさん 上』(NHK出版)では朝ドラの前半部分の展開が描かれているので、ドラマの今後の展開が待てない人はぜひとも手にとってみてほしい。「もろうた人がうれしい言うてくれるような…思いを伝えられるような…そういう“べっぴん”を作る人になりたい…」。タイトルの「べっぴん」は「特別によい 品物」を表す「別品」という言葉と、強く美しく生きるヒロインの「別嬪」な姿とを重ね合わせている。モノづくりに決して妥協せず、戦後の時代を生き抜いたヒロインの姿がとてもまぶしく、力強い。

 時は、昭和初期。繊維の卸売商社「坂東営業部」の創業者・坂東五十八の次女として生まれた坂東すみれは、神戸に建つ洋館で、姉・ゆりとともに裕福な暮らしを送っていた。すみれの特技は、亡き母から習った裁縫。幼い頃から、時間を見つけては、夢中で刺繍に励んでいた。すみれは、初恋の人・野上潔の家に嫁いだ姉に代わって、坂東家の名を残すため、父親に言われるがまま、幼馴染の田中紀夫と結婚する。子どもを授かるが、幸せは長くは続かなかった。娘・さくらが生まれる前に、戦局が悪化し、紀夫が出征。家を空襲で失い、終戦後も夫は行方知れずのまま、生活は困窮していく。そんななか、すみれは、靴屋の一角を借りて、手芸品の販売を開始。だが、商売経験のない彼女の商品の売れ行きはいまひとつだった。しかし、ある日、欧米人の赤ん坊向けのオムツを作ることになると、風向きが変わる。そして、すみれは、かけがえのない友人たちとともに、本格的にベビー用品の店を開くことになるのだった。

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 有名企業の誕生を描いた作品というと、大同生命や日本女子大学を創設した『あさが来た』や暮しの手帖社を創設した『とと姉ちゃん』のヒロインが思い浮かぶだろうが、他のヒロインに比べて、『べっぴんさん』のヒロイン・すみれはおっとりしている。今までのヒロインたちと比べると、時に弱々しくすら思えるかもしれない。しかし、自分の感じたことを表に出すのが得意ではないすみれだが、その芯は強く、常にまっすぐ前を向いている。好きなことにはとことん真摯に取り組み、決して妥協はしない。一度夢中になると、周りが見えなくなるほどの集中力を発揮する彼女は、商売は素人でも、よい 商品を作り上げる才能も持っている。そして、何よりも人との信頼を大切にしている。そんな彼女を慕う人たちがたくさんいる。女学生時代ともに「手芸倶楽部」を結成していた良子、君枝、坂東家の女中マツの娘・明美、経営者の先輩である父・五十八、その他にも多くの人々が彼女を支えている。すみれはそんな仲間たちと共に一針一針、ゆっくりと前へ進んでいく。

 すみれの店は評判を呼び、次第に子ども服 も扱うようになり、百貨店に支店を出すようになっていく。しかし、女性でありながら、店を切り盛りする彼女たちへの風当たりは強い。女性が働くことに理解が得にくい時代。家庭も上手に切り盛りしなくては、仕事は続けられない。ひとり娘を育てながら、仕事を続けるすみれ。娘の存在が彼女を強くすることもあれば、弱くすることもある。家庭と仕事とを、彼女は両立させることができるのだろうか。

 悩み苦しみながらも、前だけを向き、突き進んでいくヒロイン。ものを作ることへの真摯な姿と、手作りの温かさがいっぱいの物語は、今後、ますます世間の話題を呼びそうだ。

文=アサトーミナミ