「退屈な時間」や「嫌な時間」をどうやり過ごす? 一瞬で時間をスキップできる―そんな方法があったら!?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13


『タイムボックス』(アンドリ・S・マグナソン:著、野沢佳織:訳/NHK出版)

 人類が開発した史上最高の発明品「タイムボックス」。この箱の中に入ると、時間が止まり、年を取らなくなる。20歳の時に箱に入れば、10年後も20歳のまま。10年の年月も、タイムボックスに寝ている本人には「次の日」くらいの感覚なのだ。

 時間をコントロールできるというのは魅力的だ。「嫌な時間」は「時が止まった箱」の中に逃げて「楽しい時間」だけ出てくる……毎日が最高の日。そんな人生、いかがだろうか?

タイムボックス』(アンドリ・S・マグナソン:著、野沢佳織:訳/NHK出版)は、「時間」を題材にした子どもから大人まで楽しめる、メッセージ性の強い寓話的ファンタジーの傑作である。

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 大人たちは経済危機といった「暗い未来」から逃げて、嫌な時代を「タイムボックス」の中でやり過ごそうとし始めた。少女シグルンの家族も時を止める箱に入ったが、ある日、シグルンの箱だけが開き、外に出てしまう。そこで少女が見たのは、動物のはびこるゴーストタウンと化した街だった。

 やがてシグルンは、他にも箱から出てきた子どもたちと出会い、「世界を救う方法」を知っている一人の老女、グレイスに出会う。

 グレイスは「この世界にかけられた呪いをとく、たったひとつの方法を見つけた」「あなたたちに手伝ってもらわないといけない」と口にする。そして、彼女はまず、とある国の、お姫様の話を始めた。

 はるか昔、パンゲア王国という国があった。その国の王は姫のオブシディアナを溺愛し、愛するがゆえに「年を取らず若さを保てる」という不思議な箱に姫を入れ、「最高の日」だけ、年に数回、箱を開けて対面していた。しかし、それは本当に姫にとって幸せだったのだろうか? オブシディアナ姫は周囲と異なる時間を生きることに、違和感を覚えるようになる。

 一方、領土を拡げることに執着する国王、永遠に生きる姫に嫉妬する王妃(継母)や、金儲けと保身のことを考え、姫を利用するアーチン司祭の思惑や欲望などが絡み合い、遂に王国は滅びてしまう。棺の中の姫は、年を取らないまま、歴史の彼方に忘れ去られてしまったかのように思えたが……。
本作は「タイムボックス」によって荒廃した現代と、おとぎ話のようなパンゲア王国、2つの世界を行ったり来たりしながら、物語が進んでいく。

 長編小説だというのに、ページをめくる手が止まることはなかった。「中だるみ」というものが存在しない。「飽きる」ということが一秒たりともなかった。それは、次から次へと展開していく物語の構成が巧みなこともあるが、登場するキャラクターたちが、いい意味で「象徴的」で分かりやすく、ファンタジーの世界でありながら、「親近感」を得たのも大きい。

 また、「時間」「永遠の命」「家族愛」「嫉妬」「欲望」など、現代にも通じるテーマ、様々な感情が寓話的な世界観に丁寧に織り込まれ、物語に豊かさと厚みを与えていた。

 本作は「本当の幸せ」について考えてほしい我が子へ、また、大切な人へ、プレゼントをしてみるのもいいと思うが、まずはあなたが読んでほしい。大切な人と過ごせる今この一瞬が、かけがえないことに気が付くだろう。

文=雨野裾