魅力的な異性に誘われたら、パートナーがいても浮気していい? AVライター雨宮まみと人気社会学者岸政彦の「浮気論」

恋愛・結婚

公開日:2016/10/28

『愛と欲望の雑談』(雨宮まみ、岸政彦/ミシマ社)

 恋愛、結婚、家族、コンプレックス……。私たちが日常的に抱える悩みのもとは様々だ。でも、個人的でデリケートなこれらの悩みを、さほど親しくない人に打ち明けたり、社会全体の問題として考えたりしたことがある人はほとんどいない気がする。

 『愛と欲望の雑談』(雨宮まみ、岸政彦/ミシマ社)では、畑の違う分野で活躍する2人が自らの愛と欲望をさらけ出しまくりながら、個の問題を全体の問題として捉えようとする。『女子をこじらせて』(ポット出版)で全国の女性の心を鷲掴みにした、作家兼AVライター・雨宮まみ。「分析できないもの」を集めて『断片的なものの社会学』(朝日出版社)を書き、社会学の世界に一石を投じた、学者の岸政彦。この2人のコラボレーションを、いったい誰が想像しただろうか。元々は雨宮が岸の著作に感銘を受けたことで今回の「雑談」が実現。「対談」ではなく「雑談」なのは、テーマが決まらないままあまりに自由に会話が進んだため。縦横無尽に繰り広げられるトークからは、2人が「他者との関わり方」について深い興味を抱いていることが分かる。

 例えば本書の中で岸は、「不妊治療」の経験を授業で学生に明かし、傷ついたエピソードを話す。辛い経験を打ち明けたのに、授業後のアンケートには「嫁自慢乙」と書かれていたという。“子供がいない”ことではなく、“夫婦仲がいい”という側面だけを捉えられ、自慢だと思われたのだ。今の世の中では差別のあり方が逆転している、という岸に、持ってない者が持っている者を攻撃する時代になっている、と雨宮も激しく共感する。

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 また、自身に寄せられる悩み相談の多くが「恋愛ができない」というものだと雨宮が言えば、岸は社会心理学者・山岸俊男の「信頼」の研究を取り上げ、日本人の他者への信頼度が意外なほど低いと話す。山岸俊男によると、「信頼」=リスクテイキング。リスクを避けようとする社会システムが、“傷つくなら恋愛はしない”という風潮につながっているのかもしれないと岸は言う。時に個人ベースの悩み相談から、社会全体のコミュニケーション論に「雑談」は展開する。

 共感し合ったかと思えば、時に2人の意見は真っ向から対立する。「浮気の是非」について、すごく魅力的な異性に誘われたら、パートナーがいても“浮気”をしてしまうのは仕方がないと考える雨宮。パートナーとの関係の中でそんな事実は存在してはいけないと考える岸。どちらも一歩も譲らない。ほぼ初対面の相手に対して、それぞれが本音をさらけ出し、遠慮なしにぶつかり合う様子は爽快だ。

  本書の文量は96ページ。それにもかかわらず 、トピックによって笑ったり、しんみりしたり、考えさせられたりと、とにかく読みごたえがある。ミシマ社が「カフェタイムに読み切れるような本」をモットーにつくった、“コーヒーと一冊シリーズ”の一冊ではあるが、おそらく多くの人がその面白さから、コーヒー1杯を飲みきる前に読み終えてしまうに違いない。

文=佐藤結衣