恒川光太郎 境界に生きるモノたちの生き様を描く

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/27

「収録した4本の短編に共通するテーマは“鼬(いたち)幻想”です。中国大陸からやってきた不思議な金色の獣が日本をさまよい、またどこかへ去っていくという仕上がりになっています」
2005年に『夜市』を上梓して以来、幻想的な作品を数多く発表してきた恒川さん。最新作『金色の獣、彼方に向かう』が発売された。

「僕は鼬や狐が好きなんです。かわいいというのもありますが、ちょっと不思議な感じのするところがいいんですよね。民俗学の本を読むと、日本には鼬っぽい妖怪がけっこういます。つむじ風に乗ってやってきて鎌のような手で人に傷をつける鎌鼬(かまいたち)とか。『夜市』以来、あまり妖怪的なものを書いていなかったので、久しぶりに登場させたいなと思ったんですよ」

主人公が、いきなり奇妙な世界に行ったり、あちこち放浪したりすることが多い恒川作品。今回は森の周辺の世界に焦点をしぼった作品になっている。
「鎌鼬は窮奇(きゅうき)と表記される場合がありますが、もともとの窮奇は中国で“四凶”と呼ばれた別の妖怪です。姿形も牛のようとも、虎のようともいい、鼬とは全くかけ離れている。それなのに、どうして日本では窮奇が鼬の化け物として語られるようになるのか、本作はその始まりの物語なんです」

本書の最初を飾る「異神千夜」は、歴史上の出来事である元寇を背景にした金の獣の物語。そして、「風天孔」「森の神、夢に還る」を経て、元寇から何百年も経った時代が舞台となる「金色の獣、彼方に向かう」で、再びあの獣が姿を見せる。そこでは、奇妙な世界と現実がシームレスに交錯する。

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「きっと、僕は“闇”を見るのが好きなんでしょう。闇には何が潜んでいるかわからないから、そこに光を当てるとおもしろいものがぱっと浮かび上がりそうな気がする。暗い部分には何があるかわからないから、僕の想像を詰め込める。その自由さが書きやすさになるんです」

闇に沈み、語られない物語にこそ潜む魅力を描く。作家・恒川光太郎のスタンスはそこにあるらしい。

「本作は、少しホラー成分の強い作品集になりましたが、これまであまりファンタジーやホラーを読まなかった方にも楽しんでもらえるような作品になったと思っています」

(ダ・ヴィンチ1月号 今月のブックマークEXより)