“スイーツ×謎解き”の意外なコラボが好相性! 『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13


『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』(友井羊/集英社)

肉じゃがに入れる醤油の量を間違えたところで仕上がりにほとんど変わりはないけれど、スイーツを作るときに材料をちょっと測り間違えただけで大失敗の仕上がりに――。お菓子作りをする人なら誰もがご存じのようにスイーツのレシピはとても繊細。レシピに忠実に作らなければすぐに失敗するし、レシピに忠実に作ったつもりでも、ちょっとした熱の加減や材料の質、保存方法なんかによって、味や見た目が大きく変化してしまうことは珍しくない。突き詰めれば、スイーツのレシピも科学の一種。原理がわかれば反応もわかるし、その逆に結果から原因もわかるはず。このミス大賞優秀賞受賞作家・友井羊の新作『スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫』(集英社)は、そんなスイーツレシピを謎解きの鍵にした青春コージー・ミステリーだ。

物語の主人公は高校1年生の沢村菓奈。彼女は中学時代のある事件をきっかけに“吃音症”になり、高校では友達を作ることもできず、地味で目立たない毎日を送っていた。同じクラスの天野真雪はそんな彼女にもよく声をかけてくれるイケメン男子。ただ、真雪は“超”がつくほどの洋菓子マニアで、女子からもらった手作りチョコに容赦なくダメ出しをして延々とスイーツ講義をしてしまうようなスイーツ男子でもあった。ある日、そんな真雪が保健室登校を続ける“保健室の眠り姫”こと2年生の篠田悠姫子のために作ったチョコレートがなくなってしまう。チョコレートを置いてあった家庭科準備室の鍵をもっていた日直の菓奈が犯人として疑われるが、吃音症のために否定の言葉も出てこない。そんなところに助け舟を出してくれたのもまた真雪だった。真雪にほのかな想いを抱いていた菓奈は、思いがけずチョコレート探しのお手伝いを宣言。悠姫子の協力を得て、チョコレートの行方を探すうちに、彼女は自分に鋭い“推理力”があることを知る――。

第1話「チョコレートが出てこない」をはじめ、第2話以降も“カトルカール”“シュークリーム”“フルーツゼリー”“バースデイケーキ”“クッキー”“コンヴェルサシオン”“マカロン”とそれぞれスイーツにまつわる全8編を収録。取り上げられるスイーツには馴染みがあるものもないものもあるだろう。そんなスイーツについてのウンチクがなんとも楽しく、「美味しそうだな~」と読んでいるうちに、そのレシピが謎解きにつながっていく意外な展開はまさにコージー・ミステリーの醍醐味だ。それぞれの作品の構成の巧さはもちろん、中盤から作品を横断する見事な伏線には思わず唸らされる。

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そして、当事者以外はあまり知られていないであろう“吃音症”の辛さや困難、その心情を丁寧に伝えてくれることも本作の重要なポイントだ。この物語はそんな“吃音症”によってずっと下を向いたままだった菓奈が真雪や悠姫子、“お菓子作り”と出会ったことをきっかけに、顔を上げて自分らしさを取り戻していく青春を描く物語でもある。そんな菓奈の成長は多くの読者にちょっとした驚きと爽やかな感動を与えてくれるだろう。

とりあえず、読んでいるうちに作中に登場する数々のスイーツが食べたくなることも間違いなし。ダイエットには向かないかもしれないけれど、お気に入りのスイーツを用意してゆっくり読みたい一冊だ。

文=橋富政彦

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