台本は収録直前まで読まない! 第一線で活躍する声優・堀川りょうが語る独自のスタイルと声優の今後

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公開日:2016/11/6

『「超」アニメ声優!』(堀川りょう/PHP研究所)

 ライターという職業に就いて20年近くになるが、いまだに学ぶことが多くて言葉の奥深さは果てしない。とはいえ人間、いい年になれば後進を指導する機会も来るもので、わずかばかり蓄えた知識を伝えることもある。それは当然、他の職業にもいえること。『「超」アニメ声優!』(堀川りょう/PHP研究所)はベテラン声優の堀川りょう氏が、自身の体験や毎日の訓練を公開して若手の声優に少しでも役立つよう記された書である。

 堀川りょう氏といえば『ドラゴンボール』シリーズのベジータや『名探偵コナン』の服部平次など、多くの人が知っているメジャーな長寿アニメ作品で重要なキャラクターを担当。そのキャリアも声優としては30年以上、子役からの芸能活動としては50年以上を数えるという。そんな氏が今、若い声優たちに伝えたいことは何か。

 まず著者は今後「日本の一般的なアニメ界」では、声優のニーズは減っていくと考えている。その理由は少子化や「テレビ離れ」が進み、映像ソフトや関連商品の売り上げが落ちれば、アニメ業界から手を引くメーカーが増えていくだろうというもの。確かに現在、アニメ映像ソフトの売り上げで1万本を超えるタイトルは、年々減少の傾向にある。これから先、この状況が好転するかと問われれば、難しいと答えざるを得ないだろう。では縮小傾向にあるアニメ業界に比例して、声優の未来も厳しいのか?

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 そんなことはないと堀川氏は語る。声優が活躍する舞台は、実はアニメ業界だけではない。氏が学院長を務める「インターナショナル・メディア学院」では、マルチに活躍できる声優の育成に力を注いでいる。ゲームはもちろん歌手活動や舞台俳優など、今後は幅広いジャンルに参加できる声優が求められるからだ。特に面白いのが学院内に「ユーチューバーコース」が存在すること。これは「ユーチューブ」という動画共有サイトに動画をアップする人「ユーチューバー」を育成するコースだ。若手の声優が名前を売るためにユーチューブを活用するのは理に適っているし、動画作りが自己表現の研鑽にも繋がるので一石二鳥なのである。

 だから若手のみならず、声優になりたいという人も夢を持って目指してほしいという氏だが、もちろん声優としてのスキルも重要と説く。本書は著者のキャリアが単純に綴られているだけのものではない。腹式呼吸の練習や滑舌をよくする「アーティキュレーション」など、実践的なトレーニング法もかなり細かく解説されているのだ。巷のハウツー本でも、似たようなことが書かれているかもしれない。しかし声優キャリア30年以上を誇り、現在も第一線で活躍する著者が毎日実践している訓練法となれば、その説得力も段違いとなるはず。「どれだけやればあのクラスになれる」かの指針としても役立つに違いない。

 無論、同じことを実践したからといって「堀川りょう」になれるわけではない。氏にもやはり、独特のルーティンが存在する。例えばアフレコに臨むときは、事前に台本を読み込んで役作りするのが一般的だろう。しかし氏は「収録時まで台本を見ない」という独自のスタイルを持っている。当然、誰にでも真似できることではなく声優仲間にも驚かれるという。これは「役に対する気持ちの清新さ」を保ち、常に緊張感を持って収録に臨むための手段なのだ。毎日の地道な鍛錬に加えて個性的なルーティン──これこそが「堀川りょう」を現在の地位たらしめた要因なのかもしれない。

 本書を読んでいると、不思議と発声法を実践してみたくなる。実際、ライターもインタビューを行なう機会は多く、自分の声を聞いていると滑舌など気になることもしばしばだ。氏と同じような練習を続けていれば、あのような魅力的な声になれるだろうか。それは神のみぞ知るところだが、少なくとも下戸の私では氏のように「明け方まで飲んで翌日の収録に行く」なんて荒業など、こなせないことは確かである。

文=木谷誠