「きれいごと」が会社を強くする! 着実に実績を積む中小企業サラヤ、成功の秘訣とは?

ビジネス

公開日:2016/11/7

『これからのビジネスは「きれいごと」の実践でうまくいく』(更家悠介/東洋経済新報社)

 世の中のため、社会のため、困っている人のためと、企業は様々な理念を掲げている。けれど、「きれいごと」だけでは利益を追求する営利企業である限り、生き残っていけないのも当然だろう。

 こうして企業は「効率性」「目先の利益」「流行」ばかりに気を取られ、崇高な理念から遠ざかっていく。果たして、本当にそれでいいのだろうか? 新しい企業が生まれては消える厳しい時代だからこそ、「他人のため、地球のため」という「きれいごと」が必要なのではないだろうか。

 このジレンマに真っ向から挑み、成果を上げている一つの企業がある。それが、「サラヤ株式会社」だ。『これからのビジネスは「きれいごと」の実践でうまくいく』(更家悠介/東洋経済新報社)は、「きれいごと」と「ビジネス」を両立させ、成長し続けている「サラヤ」の代表取締役社長が綴った話題のビジネス書である。

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 そもそも、「サラヤ」は戦後の物のない時代に著者の父親が興した小さな会社だった。創業当初から環境と人の肌に優しい天然の植物油脂を使用した製品を作り続けており、「ヤシノミ洗剤」やアルコールの手指消毒剤、血糖値を上げない自然派の甘味料「ラカントS」などの商品を発売している。

「サラヤ」の企業文化の基盤にあるものは、「清流の感覚」だという。清流とは「無理のない、無駄のない、汚れのない、きれいな水」のこと。このやや抽象的な企業理念の軸からぶれることなく、「生活のお役に立つ製品」を洗剤から食品、医療機器まで、幅広く提案し続けている。

 著者は語る。「これからの時代、『地球市民』という理念を実行するという意味での『きれいごと』こそが、企業の持続可能性を左右し、生き残りのカギになる」と。「地球市民」――つまり、「資源や環境の持続可能性を考え」、一個人、一企業ではなく、地球規模の「利益」を考えること、それが重要になってくるそうだ。

「地球市民なんて、大げさな」と思われる方もいるかもしれない。その考え方こそ、実のない「きれいごと」だと。しかし、著者はビジネス的な思考も持っている。その上で、「きれいごと」が必要だと実感しているのだ。

 例えば「サラヤ」は「100万人の手洗いプロジェクト」として、アフリカ・ウガンダ共和国での手洗い促進運動を支援する活動を行っている。「手洗い」は「サラヤ」が創業当時から続けている事業の本流。劣悪な衛生環境のために、多くの命が失われている開発途上国の現状を変えるため、自社の培ってきた手洗い技術を生かし、「石鹸を使った正しい手洗いを知り、その知識を自主的に広めていくことを目指した」。そのため、手洗い設備の建設、子どもたちへの教育、母親への啓発、現地メディアでの手洗いキャンペーン展開などを進めた。

 この活動自体、利益が出るようなものではない(むしろ、売り上げの一部を寄付している)。さらに、「サラヤ」のそういった活動を知らない日本人も多く、「企業の好感度アップ」のためでもない。だが、企業の営利と全く切り離されて行われている「社会貢献」というわけでもないのだ。ウガンダでのこういった活動を、著者は「一つのケーススタディ」だと考えている。

 ウガンダは現在、内戦後の混乱期にある。かつての日本も、戦後の混乱期から経済発展を遂げ、経済大国になったという歴史があるが、ウガンダが同じような発展を遂げ、大きなマーケットとして成長する可能性もあるのだ。「開発途上国にいかにコミットし、潜在的なマーケットに入っていくのか、ウガンダはそうしたケーススタディになりうる」という企業としての「新しいチャレンジ」を、社会貢献と並行して進めているのである。

 確立した理念があり、企業文化を持っていること。そしてその企業文化から外れてはいないけれど、柔軟で、チャレンジ精神のある商品を生み出すこと。「サラヤ」が培ってきたビジネスモデルを倣うのは難しい面もあるかもしれない。だが、目先の利益や流行に乗っかる商売だけでは、生き残ることが難しいのも事実だろう。

「サラヤ」のような生き方は決して簡単ではないが、今後必要とされる企業は、紛れもなくこういった会社なのだと思う。

文=雨野裾