猟奇的な連続殺人なんて起こらない! 美人な先輩と「謎解き」する超平和な高校生の日常を描く! 異色のミステリマンガ『じけんじゃけん!』

マンガ

公開日:2016/11/7


『じけんじゃけん!』(安田剛助/白泉社)

 不可解な密室、鉄壁のアリバイ、謎の暗号……。これらを解き明かし、犯人の正体を暴いたときに訪れるカタルシス。あ~、すっきりした! これこそが「ミステリ」の醍醐味である。ところが、そんなミステリの真逆を突き進むような「ミステリマンガ」が登場した。それが、10月28日(金)に第1巻が発売された『じけんじゃけん!』(安田剛助/白泉社)である。

 本作は、ミステリを心から愛する容姿端麗な女子高生・白銀百合子と、彼女に恋をする後輩・戸入とのやりとりを描いた、ミステリ×日常系コメディだ。とはいえ、彼女たちの周りで何か不穏な事件が起こる気配は……一切ない! 放課後の教室で「謎解き」と称し、ダベっているだけというストーリーなのである。

 しかし、彼女たちの日常は謎に満ちている。たとえば、百合子に想いを寄せる戸入からすると、彼女の毎日は謎だらけ。偶然目撃してしまった彼女のデート現場。隣にいた男は誰なのか。露出度の高い格好をしていた女は、本当に百合子なのか。その謎を解くため、戸入は百合子に推理ゲーム(と称した、誘導尋問)を投げかける。

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 さらにミステリ好きな百合子は、自ら謎を作り出す。密室トリックを思いついては、自ら死体役となり、戸入にその謎を解かせようとするのだ。ただし、「他殺体」と書かれた紙を頭に貼付け教室で倒れ込んでいる彼女は、ただのヤバイ人だが。

 物語が進むと、そんなふたりの間にこれまた珍妙な生徒が混ざる。一見男子生徒にしか見えないサッカー部のマネージャー・ひまわりと、百合子に憧れイギリスからやって来たアイリスだ。彼女たちの存在も、ストーリーに混乱を招く。

 本作は、一般的なミステリマンガとは一線を画す。しかし、アリバイ崩しや密室、叙述トリック、フーダニットなど、ミステリを構成する要素が毎回モチーフとされ、コメディに落とし込まれているため、ミステリ好きならば思わずニヤニヤしてしまうだろう。

 もちろん、ラブコメとしての展開も忘れていない。第1巻のラストでは、百合子が戸入に好意を寄せているような様子が描かれている。はたして2人は結ばれるのか。戸入の想いは成就するのか。これが本作から読者への“謎”なのかもしれない。

文=五十嵐 大