「小説家になろう」発、累計29万部突破の『魔導師は平凡を望む』 鬼畜女子と残念イケメンがトラブルを解決していく姿に、ファン急増中!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/13


『魔導師は平凡を望む』(広瀬煉:著、11:イラスト/フロンティアワークス)

 誰もが自由に小説を投稿できるサイト「小説家になろう」。本サイトの注目度は年々上昇しており、毎年大勢の人気作家がそこから商業デビューを果たしている。なかでも人気が高いジャンルが、「異世界転移モノ」。現代に生きるごく平凡な若者が、ひょんなことからファンタジー世界へと飛ばされてしまい、そこでの生き様を描いている作品のことだ。

 そんな異世界転移モノで、いま人気を集めている作品がある。それが『魔導師は平凡を望む』(広瀬煉:著、11:イラスト/フロンティアワークス)だ。著者である広瀬さんは2012年2月より、「小説家になろう」での執筆をスタート。それが瞬く間に話題を集め、2013年10月には商業デビューし、わずか3年でシリーズ作を15冊も発表した。そしてシリーズの累計発行部数は26万部を突破し、いま波に乗っている作家のひとりである。

 本作の主人公・香坂御月は、あるとき、現代からファンタジー世界へと飛ばされてしまう。そこには“魔法”という概念が存在し、科学技術が発達した現代とは真逆の世界だ。しかし、そんな世界で御月は、偉大なる魔導師として一目置かれることになる。それはなぜか。魔法を使うには、“明確なイメージ”が必要とされる。そこに住む魔導師たちは、それを“呪文”で補っている。しかし、現代を生きていた御月からすれば、イメージすることなんてお茶の子さいさい。自然治癒能力によって怪我が治っていく仕組み、炎や光が発生する化学式、それらの知識を持っている御月は、魔法によって起こる現象、その過程を明確にイメージすることが容易なのである。ゆえに、呪文を必要としない御月は、異端の魔導師として広く知られることとなるのだ。

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 そんな彼女は、噂を聞きつけた王族たちから保護されることに。彼らは御月を畏れつつも、その偉大な力をトラブル解決に使ってほしいと懇願する。はじめこそ面倒くささが隠しきれない御月。しかし、「どうせならばこの状況を楽しんでしまえ」という至極ポジティブな性格によって、国を巻き込むトラブルをバッサバッサと解決していくことになるのだ。

 本作を語るうえで欠かせないのが、それぞれのキャラクターが非常に立っていること。御月は自他共に認める、ドS女子。災厄、鬼畜などと言われつつ、本人もまんざらではないようで、たとえ王族を相手にしても常に上から目線を忘れない。本来、この世界の住人ではない彼女にとって、自分が周囲からどう思われようが関係ないのだ。

 さらに、御月を取り巻くメンズたちもクセ者揃い。彼らはみな、「自分より強い者から痛めつけられることに悦びを感じる」「魔法にしか興味がなく、等身大フィギュア(魔道具)を妻として愛でる」「ただの脳筋、戦闘狂」「忠誠を誓った主以外の人間なんて死んでもいい、という思考回路」など、いわゆる残念な要素を持ち合わせたイケメン――残念イケメンなのである。そんな残念イケメンたちと、超ドSな御月のやりとり、これも本作の見どころのひとつだ。

 本作は、御月がさまざまなトラブルを持ち前の魔法と鬼畜っぷりで解決していく、ある種勧善懲悪的な物語である。最新巻である第15巻では、第13巻から続く「貴族令嬢誘拐事件」を解決に導くエピソードが描かれている。しかも、そのストーリーは二転三転の連続。最後には予想外の真相が明らかになり、そこでもまた御月のカッコよさに惚れぼれしてしまうだろう。また、11月11日(金)に発売される第16巻では、これまでに登場したキャラクターたちの後日談的エピソードが描かれる。彼らがどのように成長したのか、ファン垂涎の一冊になりそうだ。

 「小説家になろう」発の本シリーズ。キャラクター像、ストーリー展開、軽やかな文体と、どれをとっても一級品の本作を、ぜひ一読してもらいたい。

文=五十嵐 大