なぜ、定番商品「ポッキー」の売り上げを5年間で50億円伸ばせたのか? グリコスゴ腕ヒットメーカーが明かす、ヒット商品を生む秘訣

ビジネス

公開日:2016/11/11

『結果を出すのに必要なまわりを巻き込む技術』(小林正典/ポプラ社)

 多くの人に愛されるヒット商品はどうやって誕生するのだろうか? きっかけは誰かの思いつきかもしれないが、それが形となり、商品として売り出されるまでには、多くの人の力が必要だ。そして、それがさらにヒット商品となるためには、もっと多くの人の知恵や力が必要になる。そこで、グリコの新商品開発の裏側がわかる本『結果を出すのに必要なまわりを巻き込む技術』(小林正典/ポプラ社)を紹介する。

スゴ腕ヒットメーカーが開発でやったこと

 著者の小林正典氏は、新感覚おつまみとしてヒットした「チーザ」や「クラッツ」、ポッキーをデパ地下スイーツに進化させた「バトンドール」など、新商品の開発チームを率いた実績を持つ。その後もチョコレートマーケティング部部長として、メンタルバランスチョコレート「GABA」やアメ焼きアーモンドを用いたアーモンドチョコレート「アーモンドピーク」など、新商品のブランディングも担当した。そしてさらに、既にチョコレート菓子として不動の地位にあったポッキーの売り上げを、頭打ちの状態からチームで50億円アップさせたという、すごい手腕の持ち主でもある。しかし彼は、自分が開発の際に行ったことは、チーム力を最大限に引き出したことと、社外の人も含め周りの人々を大いに巻き込んだことだけだと言っている。つまり、周りを巻き込む技術を使ってヒットを生み出しているというのだ。

ヒット商品を生む秘訣は力の集約

 小林氏はチームの力を引き出すことが自分の仕事だと言っているが、ただ上から指図しているわけではない。チームの話し合いには自らも参加してアイデアを出し合っている。しかし、開発チームがいくら優れたアイデアを出してもそれだけでは商品にならない。試作品を仕上げる研究所のメンバーや、製造ラインを組む製造や技術の担当者、商品化された後の製造現場の担当者、売り場づくりをする営業部、広告戦略を練る広告部や外部の広告代理店、キャンペーンでコラボする企業、商品を扱ってくれるお店など、たくさんの力が集約して初めて商品が生まれ、ヒット商品へと育てられていく。だから、周りの関係者にできるだけ自分たちのアイデアを理解し共感してもらい、進んで協力してもらえるような体制づくりをしているという。

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タッチポイント強化でポッキーの売り上げアップ

 数々のヒット商品を生み出した小林氏とそのチームは、主力商品・ポッキーの売り上げを2010年からの5年間で50億円アップさせている。このことはヒット商品を1つ作り上げたこと以上にすごいと言わざるを得ない。なぜなら、ポッキーのような認知度の高い商品をさらに売るためには、相当な工夫が必要だからだ。

 小林氏たちは、とにかくポッキーとお客さんとのタッチポイントを増やすという作戦に出た。タッチポイントとは商品との接点のことだから、それを増やすということは、発想的には単純だ。しかし、どこまでもとことんやるから、他ではまねできないレベルになる。

 例えば、毎年11月11日の「ポッキーの日」などを中心に、年に数回のプロモーションを行い、飲食店とのコラボでポッキーを使ったメニューを売り出してもらっている。旅行とポッキーを結びつけるために「ポッキーを持って観光バスに乗ると無料」や「JTBで旅行を予約するとポッキーがもらえる」などのキャンペーンも行った。サントリーとのコラボでは、プレッツェルにウイスキー用のモルトを練り込んだ大人用ポッキー「大人の琥珀」をネット限定で販売している。そして、体験型のプロジェクトとして「シェアハピ」を打ち出し、周りの人と分け合って食べる楽しさを提案している。ご当地ポッキーやインバウンド需要に合わせたお土産用のポッキーをラインナップし、おすそ分けしやすくしたのもその流れだ。このようなポッキーの売り上げ拡大策は、周りを巻き込むやり方の典型と言えるかもしれない。

 本当にチームを上手に率いることができるリーダーは、チーム内のことだけを考えているわけではない。チームの外の力もどのように活かすか考えながら仕事をしている。周りの力を利用した方がうまくいくのは、もしかしたら家庭でも同じなのかもしれない。

文=大石みずき