相方のブレイク、嫌われ者時代、妻の死産―。レイザーラモンRGの人生に学ぶ逆境をはねのける「あるある」の力

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公開日:2016/11/16

『人生はあるあるである』(レイザーラモンRG/小学館)

 2011年3月、東日本大震災が起こった直後のTwitter上である芸人のつぶやきが大量リツイートされた。

「逆境」あるある…… 人間を成長させがち。

 つぶやきの主はお笑い芸人レイザーラモンRGこと出渕誠。震災の当日、東京のイベントが中止になったRGは、交通機関がストップして帰れなくなったお客さんを励まそうと持ちネタの「○○あるある」をTwitterでつぶやき続けた。それはいつしかフォロワー数を爆発的に増やすまでに注目されるようになっていく。上記の「あるある」はそのときのつぶやきの一つである。

 どうしてRGは、人の無力さを思い知らされるような大災害を前にして何もせずにいられなかったのか? それはRGの人生もまた逆境に満ちた険しい道のりだったからだ。著書『人生はあるあるである』(小学館)からはそんな逆境の数々をはねのけてきたRGの人生観が読み取れる。そして、職場や学校で苦しい思いをしている人も本書を読み進めば、胸に突き刺さる「あるある」を見つけられるだろう。

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 今でこそテレビや営業で引っ張りだこのRGだが、その芸人人生は順風満帆だったわけではない。住谷正樹とのコンビ、レイザーラモンは結成当初からバッファロー吾郎や小籔千豊など一部の先輩から評価されていたものの、劇場でウケず、テレビ番組レギュラーもすぐ降ろされてしまう。誘われるがまま吉本新喜劇に入ったはいいものの目立つ役をもらえた相方に対して、RGはいつまでもオープニングだけ登場する「うどん屋の客」の一人から抜け出せない。しかし、新喜劇でRGはある発見をする。老若男女すべてを笑わさなければいけない新喜劇で、一般の感覚をつかめるようになったのだ。

「世間のルール」あるある…… 身につけておくと武器になりがち。

 洋楽カラオケや意表を突くモノマネなど、マニアックに思えるRGの芸も「世間のルール」を知っているからこそ意外性を見極められている。こうした逆境から学ぶ力は、相方がハードゲイキャラ=レイザーラモンHGを確立し一世風靡している間にも磨かれていく。

 HGブレイク間にRGを襲った逆境を挙げよう。HGに対抗してリアルゲイ=RGを名乗るも便乗しているとして日本中から嫌われたこと、コンビでの仕事は入らずに収入の大半はプロレス団体「ハッスル」でのレスラーの仕事に占められたこと、しかも嫌われ者であるRGはリング上でブーイングを浴びせられ続けたこと…。しかし、RGはブーイングからすら学びを得ていた。

「ブーイング」あるある……人気と捉えてパワーに変えがち。

 そして、RGにもブレイクが訪れる。きっかけは人気番組のオーディションを受けたいばかりに急遽作ったネタだ。ヒット曲に合わせて「あるあるいいたい」と歌い続け、最後に一つだけ「あるある」を披露するスタイルを開発すると、このネタが評判になり、ケンドーコバヤシや今田耕司といった先輩芸人の番組でも話題になる。今では「あるある」ネタだけでDVDがリリースされるほどに、RGの代名詞となった。「あるある」ネタは芸人人生の逆境が生んだヒット作だったといえる。

 しかし、幸福ばかりは続かない。2013年夏、RGに人生最大ともいえる逆境が襲う。妻が経験した娘の死産だ。お涙ちょうだいはタブーである芸人という職業柄、RGはその悲しみを誰にも告げずに仕事に行き、息子と共に妻を支えた。辛いことの後には必ずいいことがあると信じて。そして、その年の終わり、レイザーラモンは『THE MANZAI』で決勝進出を果たし、RG個人も翌年のR-1グランプリで決勝に残る。まるで死んだ娘から、頑張った家族に贈られたご褒美のようだった。

 本書で披露される「辛いこと」や「家族」などについての「あるある」ネタ、それらには多くの逆境から教訓を得て成長し、這い上がり続けてきた彼の人生がにじみ出ている。そして今年、故郷の熊本を襲った大震災に対してもRGは観光キャンペーンに協力するという形でサポートをしている。「あるある」とは「データであり知識であり経験」と説くRGは波瀾万丈の経験を通して、故郷を助けたいという純粋な思いへと至ったのだ。どんなに辛いことでも目を背けず「あるある」を探せば、必ず自分を支えてくれる糧となる。本書で明かされる万物から「あるある」を探すRGの姿には、人生を強く生きるヒントが隠されていた。

文=石塚就一