結婚できない、更年期による朝「立たない」衝撃、パパサークル内のかけ引き…「男のつらさ」に女性が耳を傾けた話題作!

社会

更新日:2016/12/8


『男はつらいらしい』(奥田祥子/講談社+α文庫)

 「男らしさ」とは、すなわち「ヤセ我慢」である、というようなことを言う人がいる。「愛する人のため、大義のために、自分を犠牲にしても笑顔、あるいは平然とした態度でいる」「言い訳をしないことで、結果的に誰かを守る」などなど。確かに「男らしい」といわれるような行動、あるいは「カッコいい男」の条件のひとつには、あきらかに「本当はつらかったり、言いたいこともあったりする、グッと抑える」というものがある。だから「男はつらいよ」なのだ。

 『男はつらいらしい』(奥田祥子/講談社+α文庫)は、そんなサイレントな男の叫びに耳に傾けた1冊だ。「らしい」というタイトルが象徴するように著者は女性。2007年に刊行した同名新書の文庫版である。新書刊行当時は男性問題を扱う著作がほとんどなかったということもあって話題を呼び、ベストセラーとなった。

 目次を見ると、なるほど、男がドキリとしつつ、怖いもの見たさでのぞいてみたくなるワードが並んでいる。第1章「結婚できない男たち」ならば、「未婚男性の“怒り”」「奮闘する『モテない系』」「独身『理由』の深層」などなど。「三種類の『できない』男」では、結婚できない男を「モテない系」「ビビリー系」「白雪姫求め系」と大きく3つに分類。共通点を「自分から女性にアプローチできず、傷つくのが怖い」とバッサリ……。

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 この時点で出血多量で死にそうになったり怒りが爆発したりする人もいるだろう。ただ、本書は単なる分析本の類ではない。著者が実際に男たちに取材を申し込み、顔を合わせ、話を聞き出す過程や様子も丁寧に描くノンフィクション。耳の痛い内容なのに、同時に自らの言い分を聞いてもらえた、関心をもってもらえた嬉しさのような読後感もある。取材を受けた男たちの多くがなんとなく饒舌なのも、そんな気持ちがあったのではないだろうか……。まあ、過程や様子に問題の原因が垣間見えるケースもあるのだが。

 一方で興味深いのが第3章「更年期の男たち」。男の様々なつらさ、その原因が、実は体のトラブル、更年期障害の可能性があるというレポートだ。更年期障害といえば女性特有の症状と思われがちだが、近年は男性にもあるという研究も進んでいる。更年期による勃起障害によって自信を失った男が、治療で回復した話を聞き込む著者。女性には理解しにくく聞きにくい内容にも果敢に挑む。男をおもしろおかしく分析したいわけではなく、男の様々なつらさに興味を持ち、耳を傾ける著者の姿勢が最も表れているパートかもしれない。

 他にも出世のパワーゲームに翻弄されたり、子育てサークルのかけ引きなど、今の男たちが直面している「つらさ」が次から次へと出てくる。いずれも、特別ではない、ごくごく一般的な男たちの話。その点では、本書で取り上げられる「つらさ」のどれかに、男であれば共感できるものがあるのではないだろうか。

 男女平等が進んだことで変わったのは女性たちだけではない。男もまた不透明な「新たな男性像」をめぐり、もがいている。次々と現れる、様々なタイプの「つらさ」は、その顕在化、象徴のひとつなのかもしれない。

文=長谷川一秀