嘘や悩み、過去……。それらがすべて“視えて”しまったら? 視える力を持った少年少女たちと、何も視えない少年が織りなす心温まる青春物語『アイリス・ゼロ』

マンガ

公開日:2016/11/21

 知りたくもない現実を直視してしまい、苦しい思いをした経験は誰にだってあるだろう。友だちの些細な嘘、知人が抱える問題、恋人の過去……。それらが明るみになったとき、受け手側も多かれ少なかれ傷を負うことになる。しかし、当たり前だが、これらは目に視えるものではない。隠し通されれば、気づかずに済むのである。では、もしも普段は決して目に映らないものが“視えて”しまったら?

アイリス・ゼロ』(蛍たかな+ピロ式/KADOKAWA)は、“視える”ことをテーマにした作品だ。登場する少年少女たちは、みな何かしらが視えてしまう能力を持っており、それ故に悩み、傷つき、苦しんでいる。

(C)蛍たかな+ピロ式/KADOKAWA

 彼らの目に映るものは、人それぞれ。相手の感情、嘘、死の気配。それを視る能力は「瞳(アイリス)」と呼ばれ、子どもたちの大半はその力を保有している。そう、この世界では視えることが当たり前になっているのだ。

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 そのため、何も視ることができない無能力者は「欠落者(アイリス・ゼロ)」と蔑まれ、文字通りダメ人間の烙印を押されてしまう。本作の主人公・透もそんなアイリス・ゼロの一人だ。

 だからこそ彼は、決して目立たないよう地味に生きてきた。注目されれば、どんなひどい言葉を浴びせられるかわからない。それは彼が身につけた処世術なのだ。

 しかし、そんな彼の日常生活を大きく変える存在がいる。それが、学園で人気の美少女・小雪。彼女は「物事の適格者」を見抜く能力を持っており、何の因果か透に絡むようになる。そして、ずっと孤独だった透の周囲にはさまざまな人が集まってくるように。こうして欠落者(アイリス・ゼロ)の透と能力者たちの不思議な学園生活が幕を開けるのである。

 本作の魅力は、一風変わった能力をテーマにした「謎解き」が描かれる点にある。同級生が先生を殴った理由、文化祭の衣装を隠した犯人、大切なアクセサリーが盗まれたワケ……。日常系ミステリーとも言える展開に異能力というエッセンスが加わることで、読了後、読み手には大きなカタルシスがもたらされるのだ。そして、おもしろいのはその謎を解く探偵役を透が務めるところだろう。何も視えないはずの彼が、誰よりも先に真相に気づき、真実を見抜く。目に視えるものだけに囚われていては、大切なものを見失ってしまう。彼の姿からはそんなことを教えられるだろう。

 本作は『月刊コミックアライブ』にて連載中だったものの、長らく休止状態になっていた。しかし、先日連載が再開され、11月21日(月)には最新巻である第7巻が紙版電子版ともに発売されることが決定した。しかもそれに収録されているエピソードは、感涙必至! そして、「“視えないものが視える”という設定をここまで活かすのか!」と驚愕すら覚えるだろう。

 視える力を持った少年少女たちと、何も視えない少年。彼らが織りなす心温まるミステリーを、ぜひ堪能してもらいたい。

文=五十嵐 大

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