採血でがんを発見!? がんを溶かす特効薬!? ゲノム研究の進んだ未来では、がんは怖い病気ではなくなる!

健康

公開日:2016/11/22


『未来化する社会 世界72億人のパラダイムシフトが始まった』(アレック・ロス:著、依田光江:訳/ ハーパーコリンズ・ジャパン)

 現在、日本人の2人に1人が罹患するといわれているがん。

 元プロレスラーで現在タレントとして活躍されている北斗晶さん、女優の南果歩さん、歌舞伎俳優の市川海老蔵氏の妻である小林麻央さんが乳がんであることが発表された時には、衝撃が走った。乳癌は女性12人に1人はなる可能性があるという、女性にとっては非常に身近ながんといえる。

 一般的に根治は難しいというイメージのあるがんだが、医療の技術は、私たちの想像をはるかに超えるスピードで発展している。そして近い将来、がんの早期発見や治療には、画期的な進歩が見られそうだ。そんな明るい未来を示してくれるのが『未来化する社会 世界72億人のパラダイムシフトが始まった』(アレック・ロス:著、依田光江:訳/ ハーパーコリンズ・ジャパン)だ。

advertisement

 著者のロス氏は、ジョンズ・ホプキンス大学で客員研究員を務めるアメリカで注目の未来学者。第一期オバマ政権・クリントン国務長官時代にイノベーションの上級顧問として世界中を行脚し、最先端技術に触れて得た幅広い知識を分かりやすく説明してくれている。本書では、グローバル化やAI(人工知能)など多岐にわたるテーマについての「未来」が予測されているが、今回は特にがんの早期発見や治療に貢献する「ゲノム(遺伝子工学)の未来」を抜粋してご紹介しよう。

ゲノミクスの可能性が新たな段階へ

 遺伝情報を解析する手段として、ゲノム・シーケンス(塩基配列の決定)という方法がある。本書では、この手法によって、血液のがんである急性リンパ性白血病を直した人物が紹介されている。がんの発端は損傷DNAであるため、理論的にはシーケンスを行って健康な細胞とがん細胞を比較すれば、原因が分かるのだ。しかし、現在の技術では26台のシーケンサー(配列解読装置)とスーパーコンピューターが必要で、解析には何週間もかかる。そのため前例はなく、まったく新しい試みだった。無事に原因が分かり、他の幸運も重なり、この人物は骨髄移植を受けて4年経ついまも再発はしていないという。

 通常であれば、生存率のデータすらない絶望的な状況だったそうなので、まさに画期的な結果だ。まさに、ゲノミクスの可能性が新たな段階へと進んだことを象徴している。

採血だけでがんが見つかる時代

 発生したがんを早期に、治療可能な段階で見つける方法として、「リキッドバイオプシー(液体生検)」という分析手法がある。血液中に腫瘍のDNAが含まれていないかを検査するもので、がん発見の信頼性が高いMRIよりも、100倍小さな腫瘍を発見できるらしい。あとは費用さえ低く抑えられれば、採血だけでがん検査ができるようになる。しかも、最初期段階のがんの半分近くを発見できる可能性があるというのだから、おおいに期待できそうだ。

がんを溶かす特効薬の登場

 あるゲノム研究者の目標は、「がん治療から化学療法をなくすこと」だそう。確かに、抗がん剤治療などの化学療法は、強い副作用を伴うことも多い。これが必要なくなれば、治療を受ける側の負担が大幅に軽減するのは明らかだ。研究者によれば、今後20~30年くらいで、がんだけを溶かす薬が登場するとのこと。そうなれば、つらい副作用に苦しむ人も減るはずだ。

 このように、医療の技術は確実に進歩している。物騒なニュースが多く、将来への不透明感は増す一方だが、少なくともゲノムの未来には希望が見える。「健康診断の血液検査で、ごく小さな初期のがんが見つかったけれど、専用の薬を使って根治した」なんていうケースが増えれば、もはやがんは怖い病気ではなくなるだろう。本書には、そんな未来への希望が詰まっている。

 他にも、飛躍的に発展している人工知能(AI)技術やロボット産業、ビットコインやフィンテックなど、様々な分野の「未来」について詳しく解説されている。どれも、近い将来、現実になる可能性が高いものばかりなので、これからを生きる私たちの参考になることに違いない。

文=松澤友子